「ルックバック」

「ルックバック」© 藤本タツキ/集英社 © 2024「ルックバック」製作委員会

2024.8.06

まぶしい青春への〝嫉妬〟「ルックバック」頑張る人を応援する作品だった

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

今泉マヤ

今泉マヤ

楽しみにとっておいた作品

「ルックバック」。偶然ネットで無料公開されていた漫画を読んでどハマりした。今回映像化され、豪華声優陣も話題となり、周囲の評判もすこぶる良く、「いつ見よう、いつ見よう」と楽しみにとっておいた作品。
物語は、主人公の小学生時代から始まる。絵を描くことが得意であった藤野は、学年新聞で4コマ漫画を連載し周囲からも絶賛されていた。ある日不登校で引きこもりの同級生・京本も4コマ漫画を描くことになり、その画力が話題となる。自分の才能が1番ではなかったことを知った藤野は、悔しさをバネに本格的に絵の練習を続ける。何年も描き続け、ついに迎えた卒業式の日。初対面した藤野と京本。京本は藤野に意外な言葉をかける……。


 

涙の意味は複雑

約1時間とは思えないほどさまざまな感情や長い時間の流れが凝縮された青春物語。その壮大さは胸に迫るものがあり、終盤は劇場のあちこちから、すすり泣く声が聞こえた。私も、例に漏れず泣いた。ああ素晴らしい映画だった……。しかし涙の意味は複雑で、自分で自分の心を理解するまで時間がかかった。この気持ちはなんだろう。確かに感動し胸が熱くなりながらも、心にはグサグサと刺さる痛みがあるのだ。
 

心の痛みの正体は〝嫉妬〟

鑑賞してから1日たち、心の痛みの正体は〝嫉妬〟であると分かった。選ぶことができた瞬間があったはずなのに、選ばなかった青春に対する羨望の気持ち。そして長い年月をかけて、ひとつのことを成し遂げていく人に対する嫉妬の気持ち。
私も、子ども時代、絵を描くことが大好きだった。幸い好きなことを続けさせてくれる環境にも恵まれ、絵画教室にも通わせてもらい、当時は「紙とペンがあればどこでも生きていける!!!」と本気で思っていた。
しかしその後の人生を進めていく過程で〝好き〟の向こう側にいける人は絞られていく現実も知った。もっと楽でイケてる遊び、誘惑。「そんなのダサいよ」という周りの声や目。自分なんかよりはるかにすさまじい才能。川の上流では透明だった〝好き〟という気持ちが流れていく過程のなかでだんだんと濁っていく。
そんななか藤野は迎合しない。正しくは途中迎合しかけるが、京本によって自分を取り戻す。さまざまなモノ・コトに流されなかった者だけが保つことのできる純粋性。その神々しさを劇場で浴び、涙しながら感じる「私はなぜ選ばなかったのだろう?」という悔しさ。自分の内面の濁りに気づかされる体験であった。
 

頑張る人を全力で応援してくれる作品

さて作品を見た人、特に涙を流したという人に問いたい。その涙の意味は? ここまで触れていないが、今作のストーリーも、なんとも切なく、泣けるのだが、その内容に泣いたのか、自分と重ねて泣いたのか、あるいは両方か、それ以外か、見た人、一人一人に聞いてみたい。
ひょっとしてあなたも嫉妬の気持ちを持ちましたか? もし感じたのならば、その濁りを共有して、少しでも薄めたい……なんて思ってしまう。
完全に透明にはできないかもしれないけれど、せめて今この瞬間から目の前のことを共に真っすぐ頑張っていこうではないか。
藤野のように悔しさを強さに。京本のような純粋な気持ちを大切にして。とうとうと努力を続ける人の美しさ。頑張る人を全力で応援してくれる作品だった。

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ライター
今泉マヤ

今泉マヤ

いまいずみ まや
2006年に福岡県福岡市でスカウトされ、福岡の芸能プロダクション、アソウスタイルオフイスに所属。2013年の西南学院大学3年時にテレビ西日本の報道番組「福岡NEWSファイルCLUB」でお天気キャスターとリポーターとして活動する。2015年4月、株式会社マリアクレイスの設立とともに本格的に女優として活動するため上京する。俳優としてCM、ドラマやキャスター等とともに絵本の出版などアーティスト活動も行っている。

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