©1994 Castle Rock Entertainment. ©Dividen Productions/PeepShow Pictures. ©2004 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

©1994 Castle Rock Entertainment. ©Dividen Productions/PeepShow Pictures. ©2004 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

2023.8.16

「午前十時の映画祭」常連作品「ショーシャンクの空に」を20歳の「今日も明日も負け犬。」の原作・脚本家が見てみた

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

小田実里

小田実里

「心の豊かさを失っちゃダメだ」というセリフが輝いて見える人は、勤勉な人間であふれるこの日本にどのくらいの数存在するのだろうか。これは、忙しい現代が忘れかけていたものを離さずつなぎ止めてくれる映画である。

あらすじ

妻とその愛人を殺害した無実の罪で突如終身刑の身となった元銀行副頭取のデュフレーン。彼は刑務所で拷問、性被害、集団によるいじめに遭い、まるでにんげんでない人間たちに出会う。そんな中、モーガン・フリーマン演じる囚人レッド、その仲間たちと、刑務所外から本やレコードを調達して図書館を作ったり、時に銀行勤務の経験から、デュフレーン自ら警官の税務処理を担ったりしながら、殺伐とした刑務所で暮らす人たちの心を豊かにしていく。希望を持つことも許されない刑務所内で、次第に豊かな暮らしを望みはじめる囚人たちが、生き生きと描かれている。
 

「自由」に苦しめられた

刑務所の図書館で秘書をしていた年老いた囚人ブルックスは、50年の刑期を経て仮釈放となる。しかし刑務所で過ごした長い年月の間で、変貌を遂げた社会に彼は絶望する。社会についていけない孤独感から彼はそのまま一人で首をつった。壁に、「BROOKS WAS HERE (ブルックスここにありき)」と刻んで。ブルックスを演じる俳優ジェームズ・ホイットモアの見せる表情は常に切なさとかすかな希望が混じり合っているのが印象的だ。
 
ブルックスにとっての当たり前は刑務所にあった。生き方、生活リズム、共に過ごした仲間。今更、年老いてしまった彼にとって染み付いた生活から解放されるなど、言ってしまえばいい迷惑なのである。彼の自死は誰もが望むはずの「自由」に苦しめられたことにある。

シャバに戻っても生きられないというのは映画の中の時代に限ったことではない。ここで、「ケーキの切れない非行少年たち」という本で見た、出所後に少年院へ出戻りしてくる少年たちを思い出す。少年院に入る子の14%が知的障害を持っており、そんな彼らは少年院を出たのちも更生に苦労し、出戻りしてくる子も多くいると言われている。社会に出たものの、「普通に生きられない」孤独感から罪を犯し、社会復帰の機会を逃す少年も存在するのだ。「当たり前」の食い違いや「自由」に苦しみを抱えるのはいつの時代も共通しているのだろう。
 

希望は失うな?それとも危険?

やがて、収容年数が10年経過したデュフレーンと30年が経過したレッド。二人はブルックスの自殺後、「希望」への価値観ですれ違う。デュフレーンの「人の心には希望がある。失うな」という言葉に対して、レッドは「希望は危険だ」と唱える。

レッド自身がこの30年間、どんなに仮釈放を望んでも拒まれてきたこと、希望を持つと同時にそれがかなわないという絶望を幾度となく味わったことから、この刑務所という塀の中で何度も正気を失ってきた。希望を持ちつづけるデュフレーンに、彼は亡きブルックスを重ねているのがわかる。

ブルックス含め、囚人たちに共通しているのは、出所後の自分を迎えてくれる居場所がないこと。どれだけ衣食住が整っているシャバに出られたとしても、彼らの幸福度が上がるとは限らず、塀の外に出ても、彼らはまた孤独感に打ち勝たなければならないのである。彼らの叫ぶ「ただいま」に「おかえり」と返してくれる場所がない限り。
 
二人はすれちがいながらも、レッドが昔吹いていたと話していたハーモニカをデュフレーンが調達してデュフレーンなりの歩み寄り方で人間らしく生きることの大切さを唱えつづける。「心の豊かさを失うな」というデュフレーンのセリフ。銀行の副頭取として激務をこなしていた彼だからこそ、とも言える言葉に果てしない生命力を感じる。他にも、刑務所の図書館を増設したり、仲間に勉強を教えて高卒認定を取得させてきた彼の行動は、見るひとに常識というものへの疑念を抱かせてくれる。
 
囚人は何も望んではいけない
衣食住だけが人生である
 
というまかり通った常識だ。たとえ犯罪を犯した人間であっても、皆感情をもった人間であるという自覚を忘れてはいけないのである。そんなメッセージがこの映画には込められている。

これは、凝り固まった先入観に押し潰されて生きる人びとに寄り添った映画であり、忙しい現代人が殺してしまいがちな「感情」というものに息を吹きこむ映画である。この作品が、数十年先も時代に作り上げられた先入観の犠牲者に寄り添ってくれることを私は切に願っている。
 

ビッグスクリーンで大刑務所の雰囲気に浸ってみる

この映画は、配信でも見られるが、「午前十時の映画祭13」という企画で全国の対象の映画館にて公開される。実際に映画館に行って、昔にタイムスリップした気持ちで、名作を鑑賞できるのは貴重な体験になるだろう。「ショーシャンクの空に」は、9月29日〜10月26日の間、上映される。映画館ならではの質の高い音響とビッグスクリーンで大刑務所の雰囲気に浸ってみるのもいいかもしれない。

私は福岡にある中洲大洋映画劇場の深紅のベロア生地の座席を目当てに、劇場に足を運びたいと思っている。

「午前十時の映画祭13」詳細→https://asa10.eiga.com/

ライター
小田実里

小田実里

おだ・みさと
小説家・脚本家
一般社団法人MAKEINU.代表

新着記事