世界3大映画祭の一つ、第75回ベルリン国際映画祭の話題を現地からお届けします。日本映画の最新作も上映され、映画人が現地入り。ドイツや欧州を取り巻く政治情勢に揺れてきたベルリンは、今回からプログラムディレクターが交代し、新体制の船出となってそのかじ取りに注目が集まっています。
第75回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した「ドリームズ(セックス ラブ)のダーグ・ヨハン・ハウゲルート監督2025年2月22日、ロイター
2025.2.23
日本のアートアニメに銀熊賞! 「普通の生活」水尻自子監督 ベルリン国際映画祭
第75回ベルリン国際映画祭で22日(日本時間23日)、授賞式が行われ、短編部門に出品された水尻自子監督のアニメーション「普通の生活」が、銀熊賞(審査員賞)を受賞した。日本人監督作品の同部門での受賞は、2012年の「グレートラビット」(和田淳監督)の銀熊賞以来。長編部門の最高賞の金熊賞には、ノルウェーの「ドリームズ(セックス ラブ)」(ダーグ・ヨハン・ハウゲルート監督)が選ばれた。
「普通の生活」© Miyu Productions & New Deer
「単純と繊細、詩的なパステル調の世界で魅了」
水尻監督は人間の体や日常生活の細部の微細な動きを、淡い色調で繊細に描くアートアニメを作ってきた。「普通の生活」はフランスとの合作で、人間の指先や犬の体毛の細かな動きなどをコラージュした約10分の作品。授賞式では「単純なものと微細な部分を巧みに組み合わせて、詩的なパステル調の世界へと導いてくれた。普通の生活を催眠術のような芸術作品にしたことに魅了された」と評された。
水尻監督はベルリン入りせず、ビデオメッセージを寄せた。「明確な物語やセリフもなく、言葉で言い表しにくい感覚的な作品で賞をいただけたことはほんとうに光栄です。〝普通〟は人によってさまざまですが、どの〝普通〟も感触を感じることができる身体を持って生きていることは共通していると思います。その中での感触的な心地よさや不思議さを表現しているアニメーション作品です。今までの作品で最も多くの人が関わり、協力してもらってできた作品なので、プロデューサーをはじめ音楽家の方、スタッフのみなさんにも感謝しています。そして作品の中に登場する犬は私の愛犬がモデルなのですが、いつもそばにいて素朴で温かい幸せをありがとうと言いたいです」
「海辺へ行く道」©︎2025映画「海辺へ行く道」製作委員会
「海辺へ行く道」はスペシャルメンション
また、児童映画を集めた「ジェネレーション部門」では、横浜聡子監督の「海辺へ行く道」が、次点にあたるスペシャルメンションを受けた。ベルリン滞在を延長して授賞式に参加した横浜監督は「劇的なことは起こらず社会的な問題でもないけれど、いいことが起きるという予感を持った若者が、アートを作る日常を描いた。そのうれしい予感が観客に伝わったのではないか。原作者の三好銀さんからは寛容さ、ユーモアを学んだ。ユーモアは断絶や絶望を救ってくれる。上映で笑いが起こっていた瞬間が幸せだった。温かい笑いと拍手を胸に、生きていこうと思います」とあいさつした。
授賞式後に横浜監督は「受賞は1ミリも思っておらず、奇跡と思っています。誰かのために作ったわけではないけれど、子どもたちが最後まで見てくれたのがよかった。笑いは世界共通。ユーモアは対象と距離を置くことで生まれ、小さな笑いが大切」と話していた。
アンドリュー・スコットに助演賞
長編コンペティション部門の受賞結果は以下の通り。すべて「銀熊賞」。
審査員大賞「ブルー・トレイル」(ガブリエル・マスカーロ監督)▽審査員賞「メッセージ」(イバン・ファンド監督)▽最優秀監督賞 メン・フオ「リビング・ザ・ランド」▽最優秀主演賞 ローズ・バイン「イフ・アイ・ハド・レッグス・アイド・キック・ユー」▽最優秀助演賞 アンドリュー・スコット「ブルー・ムーン」▽最優秀脚本賞 ラドゥ・ジュデ「コンチネンタル’25」▽芸術貢献賞 ルシール・アザリロビック「アイス・タワー」