「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」

「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」© 2023 KGB Films JG Ltd

2024.9.20

「ゆっくりと死に向かっていた」和合由依が見た「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

和合由依

和合由依

ジジョン・ガリアーノ。彼のことを、私はこの映画をきっかけに初めて知りました。映画に登場したジョンの作品の数々は私に刺激を与え、ずっと眺めていても飽きないその構造に目を奪われました。
 

新しい自分をつくりだすきっかけ

人は、自然と刺激を追い求めていると感じます。生活を送る中で、自分が出会ったことのないモノや世界に触れた時、それに魅力を感じるのは自分自身が刺激を受けたからなのです。今好きなものもいつかは変化して、また新しいものを好きになるかもしれない、そういった自身の中で生まれる変化が、新しい自分をつくりだすきっかけとなり、行動をアップデートしていきます。
 

ファッションスタイルを時が進むにつれアップデート

私の中でも、年齢とともに変化が生まれています。ファッションだと、色合いが優しい服からブリティッシュ系の服を好むようになっています。ブリティッシュは、特に秋に入ると着ることが多くなり、お気に入りのアイテムはベレー帽。ジョンも同じように、好きになるファッションスタイルを時が進むにつれアップデートしているようでした。

衣装たちはまるで生きているよう

彼が刺激を受けたものは、彼が生み出すファッションに深く関係し、コレクションにも反映されていました。そんなコレクションの中でも、私が新鮮な驚きを感じたのは、2007年にパリで開催されたChristian Dior(クリスチャン・ディオール)のオートクチュールコレクションのシーンです。日本をテーマにして作られた衣装たちはまるで生きているようでした。鶴をモチーフにした衣装が画面に現れた時は、思わず「わぁ、きれい」と声がこぼれてしまったほどです。私たちの生活に密接に関係している「服」がこんなにも可能性があるものだと感じた時は鳥肌が立ちました。普段の生活を送る上では、着心地の良さや、機能性、快適性を重視した服を身につけているため、ジョン・ガリアーノが作るような斬新な服には触れる機会がめったにありません。そんな中で、ジョンの生み出した日本衣装のコレクションを見た私は、同じ「服」でもさまざまなビジュアルに変化できる、服の多様さと可能性、そして自由を感じました。また、日本の文化と衣装を、斬新かつ繊細に表現できる彼は、この映画のタイトルにも登場する通り、まさに天才だと感じました。彼が私に与えた刺激は、私の心を大きく突き動かしています。
 

まるで少年のよう

彼の魅力は、ファッションへの変換能力にとどまりません。自分の仕事について、こんなにも楽しそうに話す人を見たのは初めてでした。ファッションへの愛や芸術への自身の探究心、または価値観について語る時、彼の目が輝きます。自分の好きなものについて説明をするその姿は、まるで少年のようです。好奇心にあふれています。そんな姿から、彼を知りたいとまたさらに私は思うのでしょう。
 

ジョン自身が当時に向き合う

彼の絶頂期であったChristian Diorのデザイナーを担当していた時代を見て私が感銘を受けていた時、映画はジョンの人生で起きた、反ユダヤ主義の暴言を吐いたことについて深く触れていくようになりました。「ファッション界の革命児」と呼ばれたたえられ、華麗な人生を送っていると思われていたタイミングでなぜこのような差別的な発言をしてしまったのでしょうか。その真実について、ジョン自身が当時に向き合います。

ゆっくりと死に向かっていた

ジョンは、トークの中で「当時の自分は、コスプレのような服を着ていた」と語っています。この言葉に私は共感を覚えました。彼はこの時、己を見失っていたのではないでしょうか。仕事が中心となる多忙な環境で生きていたからこそ、自己が分からなくなっていたのだと思います。自分に向き合う時間が少なくなると、自分の価値が自分ではない他の誰かが定めるものだと思い込んでしまう、または感覚的に自然とそう感じてしまうことがあると思います。多忙な仕事に追われた彼はきっと、身体的にも限界を迎えていたのでしょう。「ゆっくりと死に向かっていた」、自ら発したこの言葉は、事件から時がたった今だからこそ、人に発信できるのだと思います。そんな、当時の自分をあらためて振り返り語る今のジョンは、時折険しい表情を見せながらも素直に自分に向き合っているように見えました。
 
現在、Maison Margiela (メゾン・マルジェラ)のクリエーティブディレクターとして活躍するジョン・ガリアーノ。人生のどん底から生き返っ生命力生命力に、私は吸い込まれるように映画を見ました。ジョンの未来をまだまだ追いたいと思わせる作品でした。

関連記事

ライター
和合由依

和合由依

2008年1月10日生まれ。東京2020パラリンピック開会式では、これまで演技経験がなかったものの、片翼の小さな飛行機役を演じ切り、世界中の人々に勇気と感動を与えた。羊膜索症候群、関節拘縮症による上肢下肢の機能障害を抱える。中学時代は吹奏楽部に所属しユーフォニアムを担当。趣味は映画鑑賞のほか歌や絵画。2021年毎日スポーツ人賞文化賞を受賞。24年5月11日(土)よる10時~ 放送、NHK土曜ドラマ「パーセント」に出演。



この記事の写真を見る

  • 「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」
さらに写真を見る(合計1枚)