誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。
2023.8.25
「ユーフォを吹き続けたい自分がいる!」和合由依が見た「特別編 響け!ユーフォニアム 〜アンサンブルコンテスト〜」
北宇治高校吹奏楽部新部長の久美子は「アンサンブルコンテスト(通称〝 アンコン〟)」に向けて準備をしています。アンコンに出場できるのは選ばれたアンサンブルチームのみ。その代表チームを決めていくために、アンコンの前に校内予選が行われます。部長になったばかりの久美子は、忙しい日々を乗り越えようと頑張っています。
驚きだらけの時間
この作品を見て一番に私が思ったのは、吹奏楽部(吹部)のリアルな部分を表現しているのだというところ。久美子が発する言葉や、イベント前の部員全員が慌ただしく過ごしている様子は、私が経験した吹奏楽部の思い出と重なりました。私が先生や先輩から教えていただいた楽器を演奏する際のポイントなどを久美子が発していたり、本当に驚きだらけの時間でした。
ユーフォが私の相棒
また、主人公の久美子が担当するパートは金管楽器のユーフォニアム(ユーフォ)。私も同じ楽器をずっと担当していました。この楽器をご存じの方はあまりいらっしゃらないと思います。なぜならオーケストラには存在しなくて吹奏楽部には存在する楽器だからです。大きさはチューバよりひと回り小さいくらいで形も似ています。また、マウスピースの形が同じトロンボーンとは親戚の関係になります。高校生になった今は部活に入っていないのですが、小学校5年生から中学校3年生までの5年間、ユーフォが私の相棒で、この5年間は本当に濃い時間となりました。
制限された3年間
正直なところ、中学の3年間は新型コロナウイルスの影響でイベントが中止になったり、放課後の部活動の時間が短くなっていたりと、活発に活動をすることができない制限された3年間でした。ですが、そんな限られた部活動の時間の中でクラスや学年が違うさまざまな人たちと一緒になって演奏できたことがすごく楽しかったのです。コロナの影響で物足りなさを感じているからこそ、そんな貴重な時間を大切にしようとしていた自分もいて。今振り返ると、とても充実した3年間だったなと思います。
部長はその部活の雰囲気を作る
本作は吹奏楽部の部長が主人公のストーリーになっているため、久美子の仕事の様子がすごくよく分かります。どこの部活でも同じだと思うのですが、部長はその部活の雰囲気を作る大きな存在となる人です。部長が厳しい人だったら部員の空気も少し硬くなるし、優しくて明るい人だったら部員も元気な空気を生み出すでしょう。顧問の先生の次に、あるいは先生よりも部員を引っ張っていく存在となるのが部長。部員どうしの関係は本当に大切で、仲が良いほど演奏の仕上がりも良くなっていきます。私から見た久美子は一生懸命で明るくて思いやりのある人です。だからこそ、まとまりのある演奏ができる部活を作ることができているのではないかと思います。後輩たちも先輩である久美子部長に対して、緊張を隠そうとしながらも真剣に個人の相談をしている様子から、信頼を置くことができているのだということが分かりました。
後悔している自分がいます
私の中学3年間はコロナ禍真っただ中だったので、吹部もイベントなどに出演をするチャンスが少なく、久美子が所属する吹部のようにとても生き生きとした部活ではありませんでした。やはり、イベントの出演などの目標が無いと、やる気はそう簡単に出てこないものです。今、高校の吹部に入部しなかったことを後悔している自分がいます。少しずつコロナ対策への緩和が進んできた今があるからこそ生まれた感情なのかもしれません。だからこそ、久美子の部活の雰囲気がとても羨ましいです。
まるで一緒に
演奏はいつまでも未完成のままで、うまくても完成はしないと私は思っています。そんな楽器を使っていく上での苦労や、部活の雰囲気の大切さ、部長はいつも一生懸命であるのだということなどなど、本作を見ている者もまるで一緒に吹部に入って活動しているかのような感覚になると思います。
この環境は貴重
私の一つ上の同じパートだった先輩は引退する際にこのようにおっしゃっていました。「絵を描くのも好きで美術部に入ろうか迷ったけれど、吹部は吹部でしか触れ合うことのできない楽器がある。絵は家でも描くことができるから吹部に入ることを決めた」。私はただ音楽が好きで小学校の頃から吹部の経験があったため、中学生になっても絶対に吹部に入部すると決めていたので、悩むことなくこの部活を選択しました。ですが、先輩のこの言葉を聞いたとき、今のこの環境は貴重なのだということに気がつきました。絵を描くことや歌うこと、サッカーやバスケットボールをすることなどは、学校の授業などで一度は触れ合うものです。しかし、吹部で触れ合う楽器たちは、部員以外は触れ合うことのできないものたちばかりです。
ピカピカに輝く楽器を抱えて
私は今、「吹奏楽部に5年間所属し、ユーフォニアムを担当していた」と言えることが誇りです。コロナ禍で制限された学校生活ではありましたが、あの放課後の部活動の時間は楽しかったです。もちろん、苦戦して何度もイヤになったこともありましたが、ピカピカに輝く楽器を抱えて演奏をすることには特別感がありました。〝やっぱりまだユーフォを吹き続けたい自分がいるのかもしれない〟、この作品を見てそんな自分の感情にまた出会うことができました。
「特別編 響け!ユーフォニアム〜アンサンブルコンテスト〜」は現在公開中。