© 2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

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2024.3.13

またもオスカー無冠でも、リアルな時代表現、パフォーマンスが人間性を魅力的に活写する「カラーパープル」

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

Rhythm

Rhythm

この作品は歌から始まり、歌で終わる。それだけ聞くとシンプルなミュージカル映画だと思われてしまうだろうが、そうではない。始まりと終わりでは登場人物たちに大きく変化があり、映画ではなく一人の人生を見届けた気持ちになるだろう。


 

本当の自分とは

この作品の主人公セリーは過酷な環境で育ち、運命に翻弄(ほんろう)されながらも人との出会いを経て本当の自分とは何かを知っていくのだ。そんなシーンごとの感情の変化はセリフや表情はもちろん歌唱、ダンス、背景、配役などの表現方法によって明確にされていく。
 

魅力的な登場人物

この映画には魅力的な登場人物が多い。まずは、主人公のセリー。彼女は基本的には優しく、おとなしい人物である。だが彼女の歌唱は性格とは裏腹な力強さを感じさせ、感情の変化もわかりやすい。主人公ということもあるが、その行く末がとても気になる人物だ。

 そして女性として生きることに誇りを持ち、男にこびへつらわないソフィア。彼女のような存在がいなければ、今の世の中のように男女平等な世界は訪れなかったかもしれない。彼女はセリーとは異なり、自分の思ったことは曲げない女性でソフィアがどれだけの影響をセリーに与えていくのか、これも見どころだ。


そして圧倒的カリスマであるシュグ。セリーたちの住む街出身のプロのブルースシンガーだ。彼女が通れば街はお祭り騒ぎ、男はその存在にひかれ、女にとっては憧れの人。そんな彼女が歌うブルースの歌詞は、都会の洗練と大人の魅力にあふれ、その垢抜けたパフォーマンスにセリーもひきつけられていく。そんな個性あふれるキャラクターがこの3人以外にも多く登場する。歌唱力、演技力、全てにおいて卓越したキャストぞろいなので、彼らにも魅了されることだろう。

自然そのものの美しさ

そして、この映画で用いられた美術や背景はパフォーマンスシーンを美しく彩っている。撮影ロケ地はもちろんだがそこに追加された小道具(浜辺の流木など)、そして夕日のシーンの撮影方法などコンピューターグラフィックス(CG)ではない自然そのものの美しさを利用しているのだ。


滝の流れる水辺で、登場人物の歌唱とバックダンサーによるパフォーマンスが行われる圧巻のシーンだ。女性のみで構成されたこのシーンでは女性らしい清らかさ、そして当時の女性の立場をも表現してみせた素晴らしいシーンである。それは歌詞からはもちろん振り付けからも感じ取ることができる。ここで用いられるのはJAZZダンス。腕や足の伸びで空間を広く使い、しなやかな振り付けが特徴のこのダンスは、たおやかな女性らしさを表すのに最適だ。そして水辺という特殊な場所で踊るダンスは、とても難しいのだが、足元の水やぬれた体から水が跳ね散ることで、その場でしかなしえない表現と効果が生まれるのだ。まさに歌唱、ダンス、場所設定の妙によって生み出された一大エンターテインメント。このシーンだけでも一つの作品として成立してしまいそうな秀逸なパフォーマンスだ。
 

リアルで激しい表現

だが、この作品が素晴らしいのはパフォーマンス要素だけではない。物語の展開、女性が男性に虐げられ、さらに白人による黒人への差別があった時代が本当に存在したんだと実感させるリアルな描写など観客に与えるインパクトも大きい。先ほどはパフォーマンス面で表現された女性の立場などについて述べたが、当時の男尊女卑の描写においては男性俳優の演技やセリフで強調されている。特にミスターは親の代から男性優位主義の家系かつ、地元地域の有力者なのだ。そんな彼の支配下に置かれたセリー、そして妹のネティの生活は当然ながら制限され、劣悪極まりない。この作品は、そこまで描くのかと思わせるリアルで激しい表現も多く、こんな衝撃的なことが現実に行われていた時代があったと思うと、僕は苦しさを感じてしまった。当時の風習に対しても同様に考えさせられ、これからこの映画を鑑賞する者もきっと同じ心情になるだろう。だが同時にこの時代背景があったからこその現在、そして感動のフィナーレがある。人が人として当たり前の幸せを享受し、自分らしさを主張する。そんな現代では当たり前なことが、かけがえのない幸せだということも感じることができるはずだ。

感動のストーリーと圧巻のパフォーマンス

最後のシーンで僕も思わず涙を流してしまった「カラーパープル」は、作品の内容とパフォーマンスのつながりがしっかりと構成され、登場人物の感情も理解しやすい秀作なので、その感動のストーリーと圧巻のパフォーマンスをぜひとも体感してほしい。

ライター
Rhythm

Rhythm

りずむ(ダンサークリエイター)
大阪芸術大学舞台芸術学科ポピュラーダンスコース卒業。
卒業後、ユニバーサルスタジオジャパンでパレードダンサーとして出演。その他矢沢永吉、西野カナ、関ジャニ∞、SnowMan、SixStonesなどアーティストのバックダンサーを務め、現在YouTubeをメインに活動中。
RedLinX https://www.youtube.com/channel/UCQVZJQHPNRkTGV1dzw2aUdQ
Rhythm https://www.youtube.com/channel/UCWlTteWTWPg8caUVfVXJj6g