毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.10.29
特選掘り出し!:「NOVEMBER/ノベンバー」 美しく残酷なメルヘン
バルト3国の一角をなす北欧エストニアから、見たこともない妖しさに満ちた映画が届いた。同国の著名な作家アンドルス・キビラフクのベストセラー小説に基づくダークファンタジーである。
時は19世紀。とある寒村の娘リーナ(レア・レスト)は、ハンス(ヨルゲン・リーク)に恋しているが、彼はドイツ人男爵の娘に心を奪われ、悪魔と取引してしまう。
この悲恋物語を縦軸に紡がれる村のシュールな世界観は驚きの連続。11月の万霊節に死者がぞろぞろとよみがえり、悪魔や魔女、オオカミ少女、疫病神が跋扈(ばっこ)するこの村で、欲深い住民たちが生きるために窃盗を繰り返し、悪魔さえ欺こうとする。動物の頭蓋骨(ずがいこつ)や廃材でこしらえられた奇怪な生き物、クラットの登場シーンにもド肝を抜かれる。
漆黒の闇に覆われた森、まばゆいほど清冽(せいれつ)な雪原、薄氷が張る沼のロケーションを捉えたモノクロ映像は、尋常ならざる詩的な夢幻性をたたえる。異教民話のエッセンスを取り込んだこの残酷メルヘン、狂っているのにとてつもなく美しい。ライナー・サルネ監督。1時間55分。東京・シアター・イメージフォーラム(29日から)。大阪・シネ・リーブル梅田(12月30日から)ほか順次全国で。(諭)
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