「さすらいのボンボンキャンディ」

「さすらいのボンボンキャンディ」

2022.10.29

「さすらいのボンボンキャンディ」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

34歳の仁絵(影山祐子)は夫が海外出張中で、毎日あてもなく街をさまよっていた。ある日、偶然知り合った48歳の車掌のマサル(原田喧太)と親しくなる。ところが、マサルは突然姿を消してしまう。仁絵はほかの男たちと寝てみるが、心の空洞が埋まることはなく、マサルを捜して街をうろつき続ける。

延江浩の短編小説集「7カラーズ」に収録の同名短編を映画化。影山が圧倒的な存在感を放ってすばらしい。焼酎をバッグに入れて持ち歩き、次々と男と関係を持つ人妻だが、性に溺れるわけではなく、酒にのまれることもない。細やかな心情が次第にリアルな感覚として伝わってくる。生活は安定しているが、心を満たす何かが欠けている。

それを探し求めてさすらう浮遊感が心地よくなっていく。どこにでもある都会の風景の中で、仁絵に自身を重ねる人もいるだろう。原田芳雄を父に持つギタリストの原田の存在が作品にメリハリを与えた。サトウトシキ監督。1時間54分。29日から東京・ユーロスペース。大阪は11月26日から第七芸術劇場で。(鈴)

ここに注目

長髪、入れ墨で目つきの鋭いマサルは現役アウトロー感を身にまとい、空虚な生活がイヤならすぐにでも出奔しそう。一方で仁絵は、フワフワして空っぽなたたずまい。対照的な2人が、湿っぽい昭和風の男女関係にとらわれる。懐かしいようなけんのんなような、奇妙な味わい。(勝)

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