第74回ベルリン国際映画祭を訪れた「夜明けのすべて」の三宅唱監督=勝田友巳撮影

第74回ベルリン国際映画祭を訪れた「夜明けのすべて」の三宅唱監督=勝田友巳撮影

2024.2.24

三宅唱監督「映画にできることはたくさんある」 「夜明けのすべて」が世界に発したメッセージ 第74回ベルリン国際映画祭

第74回ベルリン国際映画祭は、2月15~25日に開催。日本映画も数多く上映されます。戦火に囲まれた欧州で、近年ますます政治的色合いを強めているベルリンからの話題を、現地からお届けします。

勝田友巳

勝田友巳

第74回ベルリン国際映画祭で上映された「夜明けのすべて」は、満員の客席から大きな拍手を受けた。三宅唱監督にとって3度目のベルリン。主演の松村北斗、上白石萌音とそろって訪れ、「満員のお客さんに見てもらえるのは格別」。「優しい」と評される作風は、世界情勢を凝縮したような映画祭出品作の中では独特だ。三宅監督が考える「映画にできること」を込めた作品は、ベルリンにどう響いたのか。
 

3作連続でベルリン出品

2019年の「きみの鳥はうたえる」がフォーラム部門、22年に「ケイコ 目を澄ませて」がエンカウンターズ部門、そして「夜明けのすべて」が再びフォーラム。3作連続である。「初めて来たときからお客さんが主役という感じがして、大好きです」。「ケイコ 目を澄ませて」の時はコロナ禍の最中での開催で、入場制限のため客席は半分だけ。今回はぎっしり満員で「楽しかった」と喜んだ。
 
ベルリンとの縁は、アーティスティックディレクターのカルロ・シャトリアンでつながっている。商業映画第1作「Playback」(12年)がスイス・ロカルノ国際映画祭のコンペティション部門に選出され海外映画祭デビューを果たしたが、この時、ロカルノの別部門を担当していたシャトリアンが三宅監督に注目。19年にベルリンに転じたシャトリアンの作品選定チームは「三宅監督を150%応援」という体制だったという。
 

世界市場への入り口

三宅監督にとって、映画祭に参加する意味は二つある。一つは世界の市場への入り口であるということ。初めてのベルリンでのぞいた、映画を取引する見本市「ヨーロピアン・フィルム・マーケット」に印象づけられた。「ここで作品を見た人たちが、自分たちの映画祭や国で上映してくれる。映画祭の中心であり、世界のマーケットに届く市場だと認識しています」。「ケイコ 目を澄ませて」も映画祭が出発点となって、英仏での公開につながった。
 
もう一つは、出会いの場だ。「カルロともそうだし、継続的に見てくれるジャーナリストらとコミュニケーションできる。お互いにリスペクトできて仲間と感じられる人に出会えるのはすてきなこと」
 

あしたも頑張るぞと思いたい

世界中から映画祭に集まる作品には、過酷な現実や人間の闇をのぞき込むような厳しいものが多い。しかし三宅監督の映画は、闇よりも光を感じさせる。「夜明けのすべて」は、月経前症候群(PMS)の藤沢とパニック障害の山添が主人公だ。彼らの生きにくさを描写しつつも、穏やかで親密な余韻が残る。ベルリンでの上映も温かな雰囲気に包まれ「登場人物を友達のように感じてくれていた」と満足そう。
 
「映画祭で紹介される作品の題材に特徴があるのは理解しつつ、自覚的に違う角度から見ています。映画にジャーナリズムの側面があることは知っているけれど、本当に緊急の問題に対しては、映画より報道など別の媒体を使うべきだと思う。ただ、映画でやれることもたくさんある。それはポジティブな力を俳優と一緒に表現して、エネルギーを与えることではないか。自分でも、映画を見てよかったな、あしたも頑張るぞと思いたい。そのことで、世の中が少しだけでも良くなるかもしれない」
 
「メッセージが明るくなくてもいい。この映画も派手ではないし、2人の病気が治るわけでもない。それでもネガティブな感情を引きずるよりは、ポジティブな力を見つけて物語を終えたいと思いました」
 

トラブルの時こそ人間の器量が分かる

映画を作る際に心がけるのは「知ったフリをしない」。今作でも、PMSやパニック障害について多くを調べた。「さまざまな苦しみを抱えながら生きている人が、見えないけど確実にいる。症状や苦しみ方も人によって違う。そして多くの人はそうした疾病や障害を隠したいと思っている。だからこそ社会が無関心のまま、無理を強いるシステムになってしまう。PMSやパニック障害を描くだけではなくて、日本で働くこともテーマにある」
 
藤沢と山添が勤める栗田科学は、学習教材を扱う小さな会社だ。社長はじめ同僚たちは、発作を起こした2人に、柔らかく包み込むように対処する。「トラブルが起きた時こそ、人間の器量が出ると思う。撮影現場でもベテランのスタッフは、トラブルの時こそ慌てず落ち着いて対処する。そうしたプロフェッショナリズムから学んだと思います」
 
栗田科学のような会社なら、誰もが働きたいと思うのでは。「こんな会社も、ファンタジーでなく存在すると思う。かつては利益重視の猛烈会社だったけれど、社長の弟の自死で働き方と生き方を見つめ直した。想像力を膨らませて、命を絶つ人が減ってほしいという願いがベースにあります」
 

原作を深いところで理解してくれた

上白石と松村の起用は、プロデューサーからの提案だったという。上白石が原作の大ファンと知って、脚本段階から意見を聞いた。「彼女でなければ違う映画になっていたと思います。ミュージシャンでもあり、アーティストとして尊敬しています」。松村とは今回初めて。「真面目に熱心に取り組んでくれた。人間的な魅力にあふれた、好青年です」
 
声を張らず、感情を爆発させることもなく、自然に演じた。「現実的な映画にしたかったんです。病気は隠したいのが現実で、見せびらかすような演技はしない。俳優も同じ考えで、抑えるまでもなく3人が同じ方向に向かっていました。瀬尾(まいこ)さんの小説を深いところで理解して臨んでくれたことが、リアルな表現につながったと思います」

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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