©2024「ディア・ファミリー」製作委員会

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2024.6.10

実話に基づいたヒューマンストーリー「ディア・ファミリー」涙があふれそうなほど感動したが、これも不思議なほどにポジティブ

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

波多野菜央

波多野菜央

人生は短すぎる

大切な人に命のリミットがあるとしたら、私は一体どうするのだろうか。はたして私に何ができるのだろうか。大げさではなく、そのタイムリミットは明日かもしれないし、50年後かもしれない。どちらにせよ、感謝や愛を全て伝えきるにはきっと、人生は短すぎる。だからこそ一分一秒を重く、濃く生きていくことが、生を受けた私たちに与えられた使命なのだろう。そんなメッセージを強く感じた作品だった。


実話に基づいたヒューマンストーリー

これは、世界で17万人の命を救った、とある日本の家族の物語。映画「ディア・ファミリー」は、今もなお多くの人の希望となり続けているIABP(大動脈内バルーンパンピング)バルーンカテーテル誕生の実話に基づいたヒューマンストーリーである。

残酷な運命にあらがう

小さな町工場を経営する坪井宣政の幼い娘・佳美は、生まれつき持っていた心臓疾患により余命10年を宣告される。世界中の医療機関にあたってみても、当時の医療技術では佳美の病気を治すことはできないという。愛する娘が20歳になるまで生きられない。そんな残酷な運命にあらがうように、宣政は自ら人工心臓を製作しようと決意する。「お父さんが絶対治してやる」。娘と交わした約束を守るために奮闘するが、知識も経験もない全くの専門外である医療器具の開発は限りなく不可能に近かった。かさんでいく膨大な費用、冷酷な有識者、そして迫り来る娘の命のタイムリミット……あらゆる壁が立ちはだかる中でも、途方もない挑戦をし続けた「諦めの悪い男」と、その家族が起こした奇跡を描く。

別れへのカウントダウン

「何もしない10年と、やってみる10年」。妻・陽子の言葉は宣政の背中を押し、彼らの人生を大きく変える。佳美を助けるためにはとにかく時間がない。坪井一家に流れる時間の感覚は、周囲と大きなギャップがあった。一分一秒がとてつもなく重く、少しも無駄にはできないのだ。しかし、宣政が作ろうとする人工心臓の実用には、果てしない実験と臨床試験が必要となる。海外で行われる同実験の失敗を報じるニュースに何度も落胆するなか、最初は協力的に見えた大学教授もハシゴを外そうとする。本来ならうれしいはずの娘の進学や誕生日も、別れへのカウントダウンに思えてしまう。募る焦りと常に付きまとう切なさ、変わらない現実。それでも励まし合いながら前に進み続ける彼ら家族の姿に周囲の人々の心も動かされ、希望の点がつながっていく。

計り知れない慈しみ

原作「アトムの心臓『ディア・ファミリー』23年間の記録」は、主人公のモデルとなった筒井宣政氏と20年以上にわたり親交のある、ノンフィクション作家・清武英利氏の作品だ。事実を基にしたストーリーに向き合う俳優陣の覚悟を感じる演技も見事だった。製作の過程でメインキャストは、モデルとなった家族と実際にコンタクトを取る機会があったという。両者が魂を通わせた時間は、作品が持つ愛のエネルギーを増幅させた。佳美を囲む父、母、姉、妹には、それぞれの立場で違う苦しさがある。彼ら一人一人の葛藤が観客にしっかり伝わる表現はさすがだった。特に印象に残ったのが、佳美の姉・奈美を演じた川栄李奈さんの演技。明らかに弱っていく妹を前に、本人の前では明るく気丈に振る舞いながらも一人になった途端にあふれる涙に、計り知れない慈しみを感じた。映画オリジナルのキャラクターとして登場する有村架純さんも、原作を映画化することの大きな意味を託された、注目すべき重要な役どころだった。

希望や挑戦、愛という前向きなパワー

余命や病気というワードが並ぶと、どうしても悲しい印象が強くなってしまうが、この物語には希望や挑戦、愛という前向きなパワーが満ちあふれている。実際に、このコラムを書きながらも涙があふれそうなほど感動したが、これも不思議なほどにポジティブなものである。「ディア・ファミリー」は、佳美さんから家族へ向けた思い、家族から佳美さんへ向けた思い、双方向の大きな愛と絆を感じる温かいタイトルだ。そして、佳美さんの存在と家族の「あきらめない挑戦」が生んだ奇跡は、今この瞬間も世界中で脈打っている。ぜひ劇場で、この強く優しいエネルギーに包まれ、その鼓動を感じてほしい。

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ライター
波多野菜央

波多野菜央

はたの・なお
1996.10.4 生まれ
北九州発シンガーソングライター 。エネルギッシュなステージングと持ち前の元気の良さは これ以上にない武器 。ストレートかつ表現にこだわった歌詞中域から低音が特徴的な説得力のある声は現代の音楽シーンで存在感を放つ。明るいキャラクターとのギャップで聞き手の心を掴み北九州を中心に イベント、TV ラジオ、CMで活動中 。
波多野菜央のプロフィール|VIRAL(バイラル)

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