「トレマーズ」©1989 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.

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2022.11.09

愛さずにいられないUMAパニック映画「トレマーズ」:謎とスリルのアンソロジー

ハラハラドキドキ、謎とスリルで魅惑するミステリー&サスペンス映画の世界。古今東西の名作の収集家、映画ライターの高橋諭治がキーワードから探ります。

高橋諭治

高橋諭治

優れたミステリー&スリラー映画に光をあてる本連載は、気分がどんよりするダークな作品を取り上げがちだ。そこで今回は趣を変え、とことん愉快で痛快なモンスターパニック映画をピックアップ。劇場公開時における全米興行成績はいまひとつだったが、一部のファンの根強い支持を得てシリーズ化され、今なお新作が作られ続けている「トレマーズ」(1989年)である。



キーワード「安全地帯の活用」
米ネバダ州の広大な砂漠地帯の田舎町パーフェクションで、謎の変死事件が続発。まもなくそれは未知の地中生物の仕業と判明し、地元のしがない便利屋コンビ、バル(ケビン・ベーコン)とアール(フレッド・ウォード)、地質調査でこの町を訪れていた女子大学院生ロンダ(フィン・カーター)は、外界との連絡手段が絶たれて孤立した住民たちと力を合わせ、あの手この手のサバイバルを繰り広げていく。
 

「ジョーズ」の模倣にとどまらない巨大地中生物との攻防

日本でも筆者のような熱烈なファンを数多く獲得した本作のテイストは、下に掲載したブルーレイのジャケット写真を見れば一目瞭然。ずばり〝陸の「JAWS/ジョーズ」(75年)〟だ。猛スピードで地中を移動する怪物グラボイドは、ツチノコを連想させるサンドワーム(砂虫)系の未確認生物(UMA)なのだが、地面すれすれをはいずり回る主観ショットの多用は、まさに「ジョーズ」でスティーブン・スピルバーグが実践したサメ視点の演出そのまんま。しかし本作のメガホンを執ったロン・アンダーウッド監督は、単なる模倣にとどまらない創意工夫をふんだんにちりばめた。
 
グラボイドは、大きな口からいくつものヘビのような気味悪い触手を伸ばして獲物を捕食する。おまけにグラボイドは目を持たず、音に敏感に反応して行動する。こうした習性を見抜いた主人公らは、わざと騒音を立ててグラボイドをかく乱するのだが、敵もさる者。車さえものみ込むこのバケモノは、意外な学習能力の高さを発揮して人間の策略を見抜き、逆に落とし穴のトラップを仕掛けてきたりする。
 

ピンチに見舞われたら、岩場の上でひと休み

まばゆい陽光が降り注ぐ荒野を舞台にした両者の攻防には、牧歌的なスリルとユーモアがたっぷり。最もケッサクなのは、グラボイドが上ってこられない岩場に避難した主人公らが、棒高跳びの要領で岩から岩へと移っていくシーン。
 
そのほかにも住居の屋根の上、頑丈な重機といった〝安全地帯〟の活用法が何とも楽しい。また、タイトルの英単語「Tremor」は、〝震え〟や〝小さな揺れ〟という意味。荒野に噴き上がる土ぼこりや地震計などを用いて、地中に潜むグラボイドの気配と動きを可視化する描写が実にうまい。
 
コントのような掛け合いを連発するK・ベーコンとF・ウォード、あられもなくジーパンを脱ぎ捨ててグラボイドの襲撃を脱するF・カーターをはじめ、個性豊かなキャラクターにふんした俳優陣も魅力的だ。とりわけ偏執的な銃器マニアの中年男バートを怪演したマイケル・グロスは、これがキャリア最大の当たり役となり、のちのシリーズ全作品に出演。加えて、最年少の登場人物ミンディ役の子役アリアナ・リチャーズは、凶暴な恐竜にさんざん追い回された「ジュラシック・パーク」(93年)に先駆けてのキュートな絶叫演技を披露している。
 

西部劇風の様式にマッチした〝ほどほど〟の緩やかなスリル

そして、劇中に登場する4体のグラボイドの倒し方も見どころとなる。底なしの食欲を誇るグラボイドにダイナマイトを食わせて吹っ飛ばすアイデアは、やはり「ジョーズ」から拝借したものだが、そのほかの三つの退治法にも異なる趣向が凝らされている。脚本を手がけたのは、いかにも80年代的なSFファンタジー「ショート・サーキット」(86年)で好評を博したS.S.ウィルソンとブレント・マドックのコンビ。主人公バルとヒロインのロンダが危機また危機を乗り越えて、〝つり橋効果〟さながらに恋に落ちていくエピソードもさらりと織り交ぜ、誰もが愛さずにいられない本作の創造に貢献した。
 
とかく昨今のハリウッド映画は観客をハラハラさせるために、動体視力の限界を超えるほど激しいCGのアクションを詰め込みがちだが、モンスターパニックと西部劇の様式を合体させた本作の緩やかなスリルの何と心地よいこと! のんびりと〝安全地帯〟でひと休みしながらの荒野の怪物退治を、おおらかに満喫してほしい。

 
「トレマーズ」はNBCユニバーサル・エンターテイメントからブルーレイ発売中。2075円。

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ライター
高橋諭治

高橋諭治

たかはし・ゆじ 純真な少年時代に恐怖映画を見すぎて、人生を踏み外した映画ライター。毎日新聞「シネマの週末」、映画.com、劇場パンフレットなどに寄稿しながら、世界中の謎めいた映画、恐ろしい映画と日々格闘している。