ひとシネマには多くのZ世代のライターが映画コラムを寄稿しています。その生き生きした文章が多くの方々に好評を得ています。そんな皆さんの腕をもっともっと上げてもらうため、元キネマ旬報編集長の関口裕子さんが時に優しく、時に厳しくアドバイスをするコーナーです。
2023.11.04
高校生ライターが書いた「東京リベンジャーズ2血のハロウィン編-運命-/-決戦-」のコラムを元キネマ旬報編集長がアドバイス
高校生のひとシネマライター和合由依さんが書いた映画コラムを読んで、元キネマ旬報編集長・関口裕子さんがこうアドバイスをしました(コラムはアドバイスの後にあります)。
ネタばれを書くときは
和合さんはとてもわかりやすくコラムを書く方。「東京リベンジャーズ2血のハロウィン編-運命-/-決戦-」のコラムもそうでした。
まず彼女が書いたのは、「この作品には何が描かれているか?」ということ。冒頭にこれが書かれていることで、読者は作品の魅力と大まかな内容を理解することができます。
次に「和合さんたちZ世代がなぜ『東京リベンジャーズ』にひかれるのか?」を分析しています。これも観客である読者にとって興味深い話題。ここでは和合さんの導き出したいくつかの答えが示されます。
そして、「東京リベンジャーズ」シリーズの面白さの肝である〝タイムリープ〟についての考え方。東京パラリンピック開会式に主役として出演したことで未来が変わったという自身の経験談を披露しながら、誰もが〝未来へ〟とタイムリープしているのだと持論を展開します。和合さんは、誰でも参加できる一般公募で役をつかみました。まず応募するという事実が、彼女の現在を大きく左右したわけです。
最後に検証したのは、元恋人ヒナタ(今田美桜)の死を回避したいタケミチ(北村匠海)が、なぜ漫画とは異なる年にタイムリープするのか。漫画では12年前なのに、映画では10年前とした設定の謎に言及します。
和合さんは設定変更の理由を、マイキー(吉沢亮)の亡くなった兄・真一郎(高良健吾)と、タケミチの「関係が重なる」ことに由来しているのではないかと指摘します。その詳細については和合さんのコラムをお読みいただくとして、「真一郎とタケミチは似ている」という指摘、気になりますよね。
しかしながら和合さんは、マイキーにとって真一郎がどんな存在であったのか、説明することを避けます。ネタバレになってしまうことを恐れたのでしょう。みんなが「東京リベンジャーズ」、「東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命- / -決戦-」の3作品すべてを見ていればよいのですが、そうもいきません。
〝ネタバレ〟については、「絶対避けたい派」と「気にしない派」が存在します。たぶんどちらも相容れることはないでしょう。だからこそネタバレにつながるかもしれない内容の説明は気を使うし、難しいのです。
ただ説明なしでは伝わらないことがたくさんあります。ネタバレになりそうな部分も筆の力で伝えることができればベターですが、「ネタバレ要素を含む」という但し書きを入れるのも一つの手。言葉や場面の選び方などを駆使して、よりわかりやすく伝えていけるといいですね。
和合さんのコラム
前作を見た時、私は迫力のある出演者のアクションに驚きの連続でした。映画を見ている時、ずっと「かっこいい!」という感情が連発・連打していました。きっと私と同じように、アクションシーンを見て胸をわしづかみされたという人も多くいるのではないのでしょうか。
前作よりもさらにパワーアップ
「東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編-運命-/-決戦-」では、もちろんそんなアクションシーンもたくさん詰まっているのですが、東京卍會の結成秘話など、前作では知る事ができなかったマイキー(吉沢亮)やドラケン(山田裕貴)たちの過去について描かれています。さらに、新しいメンバーが加わったりと前作よりもさらにパワーアップしています。
ミッションを知っているからこそ応援したくなる
ところで、私たちZ世代はなぜ東京リベンジャーズにひかれるのでしょうか。私が思うに、フィクションの度合いがちょうどよいからだと思います。映画に出てくるような人たちに私は会ったことがありませんし、実際にヤンキーがたくさんいた時代に私は生きていたわけでもありません。また、タイムリープというのも、現実では起こり得ないことです。体験したことのない知らない世界だからこそ、見たいと思ってしまうのではないのだろうかと思います。
そして、私たちは主人公のタケミチ(北村匠海)が背負うミッションを知っているからこそ応援したくなり、話の続きを知りたくなります。また、話が進んでいくにつれそれぞれの登場人物の謎が次々に出てくるのもこの作品のポイントです。彼らを見ていると飽きないのです。
限りなく存在する未来のうちの、一つの道
そんな物語の中で、タケミチが何度も過去にタイムリープし未来を変えようとする姿から「未来はいくつでもあるんだな」と、私は思いました。
たった一つの行動で未来は大きく変化していきます。例えば、私が東京パラリンピック開会式に主役として出演していなかったらどうでしょう。もし、「片翼の小さな飛行機」を演じていなかったら今とは違う現実を私は生きていたでしょう。こうして「ひとシネマ」でライターをやっていることもないのです。
私が東京パラリンピック開会式に出演するための第一歩は一般公募の募集に参加することでした。一般公募なので誰でも参加する事ができます。そんな小さな行動から大きな未来が生まれたのです。「もしも◯◯をしていたら」「もしも◯◯をしていなかったら」と考えると、今私たちが生きている現実は限りなく存在する未来のうちの、一つの道なのです。
私たちが生きている「今」は過去の私たちが想像することのできない「未来」でもあるのです。時間が進み、進んでいく毎日が「未来」なのです。そしてどんな時でも、過去と未来の間である、肌で感じるこの生きている瞬間が「今」なのです。
そう思うと、現在と過去を行き来するタケミチの生き方は、「東リべ」シリーズを見ていれば当然なことのように思ってしまうのですが、未来に存在するたくさんの道を作り変えている彼は、すごいチャレンジをしているのだということに気がつきます。未来と過去のバトンがタケミチという存在のように感じます。「東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-/-決戦-」この言葉が本当にしっくりきます。
10年前にタイムリープをするという設定
ところで、映画を見て、私は一つ大きな発見をしました。それは、映画と漫画ではタイムリープする時間の間隔が違う、ということです。漫画ではタケミチがタイムリープをする過去は12年前。しかし、映画では10年前なのです。
では、なぜ映画ではタケミチが10年前にタイムリープをするという設定なのでしょうか。私の中で出した答えは、タケミチが、マイキーとマイキーの兄である佐野真一郎(高良健吾)の年齢の関係に合わせるようにしたのではないか、ということです。
真一郎はマイキーの10歳上の兄。それに対してタケミチのタイムリープする年齢で考えると、彼はマイキーよりも9歳上の年齢です。つまり、真一郎とマイキーの年齢関係がタケミチとマイキーの年齢関係ととてもよく似ているのです。
前作をご覧になられた方は思い出してみてほしいです。タケミチ、ドラケン、マイキーが自転車に乗って走っている時のシーンです。マイキーはタケミチに「たけみっちは10コ上の兄貴に似てる」と話をしています。
このようなことから、映画では真一郎とタケミチの関係が重なることを表現しているのではないかと私は推測してみました。そんなことも感じながら今作を見てみたら、いろいろな意味で「-運命-」という言葉の意味を感じることができました。
そして、前作に引き続き、主題歌を担当したのはSUPER BEAVER。曲の題名も歌詞も、胸にやさしく沁みてきます。「-運命-」と「-決戦-」で、曲調が違うのもすてきです。この映画をどんな音楽で締めるのか、私はずっと気になっていました。勢いのある曲なのか、やさしい曲なのか。どんな映画もエンドロールまでが作品なのです。いつでもセットです。「グラデーション」と「儚くない」の2曲。映画館のあの空間を最後まで感じてください。
原作を読んだことがある人も、映画だけ見た人も楽しむことができるのがこの続編の素晴らしいところ。そして、映画館でぜひ興奮してください!
ちなみに私は、前作の映画「東京リベンジャーズ」を見てハマりました。そして最近、原作漫画も最終話まで読み終えました。漫画も映画もどちらもたまらなく大好きです。
「東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編」
「-運命-」現在公開中。「 -決戦-」 6月30日公開。