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2023.10.14

AIロボットには恐怖を感じるが、ChatGPTなどが持つAIの可能性には「ワクワクした気持ちになる」高校生ひとシネマライターのコラムを元キネ旬編集長が評価する

ひとシネマには多くのZ世代のライターが映画コラムを寄稿しています。その生き生きした文章が多くの方々に好評を得ています。そんな皆さんの腕をもっともっと上げてもらうため、元キネマ旬報編集長の関口裕子さんが時に優しく、時に厳しくアドバイスをするコーナーです。

関口裕子

関口裕子

和合由依

和合由依

高校生のひとシネマライター和合由依さんが書いた映画コラムを読んで、元キネマ旬報編集長・関口裕子さんがこうアドバイスをしました(コラムはアドバイスの後にあります)。

和合由依さんにしてはおとなしい始まり。「M3GAN/ミーガン」についてのコラムを読み始めたときの印象です。静かにつづり始めたからこそ気になった冒頭で、和合さんは何を伝ようとしたのでしょうか? 
 
語り掛けるように彼女が書いたのは、観客を捉えるための映像的仕掛けについて。玩具デザイナー、ジェマ(アリソン・ウィリアムズ)が、交通事故で両親を亡くしためいのケイディ(バイオレット・マッグロウ)に与えた、人工知能(AI)搭載の少女型ロボットM3GANのダンスのことでした。
 
和合さんが「無表情な顔のまま踊るミーガンを見ると、悪い予感しかなくてたまりません」と書くように、「ミーガンダンス」はひと目でこの映画の恐怖の方向性を観客に伝えるインパクトを持っています。人形であるミーガンの冷ややかな表情と動きのしなやかさこそが、恐怖の源なのだと映画というメディアが持つ、視覚的表現の可能性について指摘します。
 
この作品のもう一つの大切な要素は、ミーガンがAIの産物だということ。与えられた使命をよりよく実現するために計算し続けるミーガンは、「『感情」というものが無いが故に自分が起こす行動について、正しいかどうかを倫理的に判断することが不可能になる」と、和合さんはAIの弱点に触れます。「この映画の怖さはここにあるのです」と。
 
ただし、ミーガンのようなAIロボットには恐怖を感じるが、ChatGPTなどが持つAIの可能性には「ワクワクした気持ちになる」という和合さん。人間は、これまでも新しい技術に対して恐怖と可能性を感じながら、より良い道を見つけ、発展を遂げてきたわけです。そんなターニングポイントに生み出されたこの作品は、警鐘を鳴らす役目も果たしているということなのでしょう。
 
それを理解する和合さんは、「知り合いを誘って一緒に見にいくことをオススメします」と言います。発展途上にある技術をモチーフにした作品。そこから得た感情を、そのままにすることなく、さまざまな考えの人と対話することこそが大切なのだと言いたいのだと思います。
 
そう考えると、静かにコラムをスタートさせたのもわかるような気がしました。センセーショナルな映画ですが、そこをあおることなく、こういった近未来について、いったん自分なりの見解を持つことを提案したい。そういうことなのではないかと。
 
現在、米国では、全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)がストライキを続けています。全米脚本家組合(WGA)もつい最近までストライキ中でした。争点はギャラの値上げや、健康保険・年金の拠出拡大など待遇の向上もありますが、注目はAIの使用方法をめぐる問題について。個人の才能がAIという技術の素材として安直に扱われることのないよう、大きな問題が起きる前から対話を始めているというわけです。本作の脚本家であるアケラ・クーパーやジェームズ・ワン、俳優たちも戦っているのはとてもタイムリーですね。

和合さんのコラム

「ミーガンダンス」をご存じの方はいらっしゃいますか? 赤い壁の廊下でミーガン(アミー・ドナルド)が奇妙なダンスを踊るのです。彼女は軟らかい体を使って変な動きをします。無表情な顔のまま踊るミーガンを見ると、悪い予感しかなくてたまりません。この映画が全米で大ヒットしているという情報が入ってきた時に、気になってネットで検索せざるをえませんでした。YouTubeに出てきた予告編に「ミーガンダンス」が収録されている動画を見て、どのタイミングでこれが出てくるのだろうと、ずっとソワソワしていました。そして、実際にスクリーンの中で踊る彼女を見て、「キタキタ! ミーガンダンス!」と、ひそかに興奮していました。あのシーンがたまらなく好きなのです。今までのホラー映画には無い怖さが詰まっています。本作は過去の作品には無い全く新しいホラー映画。ホラーというと現実には起こり得ない物語がほとんどですが、AI(人工知能)が取り入れられた「ミーガン」は現実に起こり得るかもしれない物語なのです。ホラーというジャンルでありながらも現実的なこの映画に私はひかれました。

 

AIならではの恐怖感が私たちに襲いかかる

「ミーガン」はホラー映画ですが、AI映画でもあります。AIは過去のデータを基に動くので、ある意味間違った行動は起こさない。けれども「感情」というものが無いが故に自分が起こす行動について、正しいかどうかを倫理的に判断することが不可能になる。この映画の怖さはここにあるのです。彼女が完璧すぎて怖い、私はそのように思うのです。AIならではの恐怖感が私たちに襲いかかります。
 

子どものおもちゃに命が宿った

本作の監督であるジェラルド・ジョンストンと、プロデューサーのジェームズ・ワンを中心に背筋が凍るほど恐ろしい存在となる人形を作るためには〝子どものおもちゃに命が宿った〟という設定が一番だという結論に至ったのだといいます。だからか、怖いだけじゃなくてかわいい一面も持っているミーガン。ケイディ(バイオレット・マッグロウ)と一緒に過ごしている時、彼女の口角は上がっていて声もやさしい。正直、私は無表情な様子もかわいいと思っています。無表情なのにもかかわらず美人さんでズルいな、なんて思ったりもします。また、一高校生からの視点だと、ニキビなどのできものが無いのもずるいと思えてしまったりします。

ですが、完璧な人間などいないのが私たちの良さでもあり、AIと私たち人間の大きな違いの一つです。また、人間には「感情」があるというのも大きく違う点です。
 

私たちのAIへの〝今の気持ち〟を確かめる

今の時代、日々の生活の中でAIに助けられている場面がいっぱいあります。例えば、私が使っているiPhoneは、「Hey Siri」と用件を伝えるために声をかけるだけで対応をしてくれます。また、このようなAIの活用はスマートフォンだけにとどまりません。あらゆる場所でAIは活用されているのです。もしかしたら今後、ミーガンのような人間の見た目をしたAIロボットが誕生するかもしれない。本作を見てからそんなことを考えると、好奇心よりも恐怖心が勝ってしまいます。でも、今話題のChatGPTなどのアプリに触れると、今後の未来が楽しみに思えて私はとてもワクワクした気持ちになります。今後、この世界がどんな進化をしていくのか楽しみです。私は進化に対応していける人間でありたいと思います。そんなことを考えさせてくれるというのは、私たちのAIへの〝今の気持ち〟を確かめきっかけになる良い映画だとも思いました。
 

母とたくさんのことを話した

最後に、この映画を鑑賞するときは自分の知り合いを誘って一緒に見にいくことをオススメします。なぜなら、「ミーガン」を見終えた時、あなたはきっと本作を知っている誰かと感情や考えを共有したくなると思うから。私も本作を見た後、家へ向かう帰りの車の中で、母とたくさんのことを話しました。
 
ホラーだけじゃない要素もたくさん詰まっているこの映画。今だからこそできた作品だと思います。奇妙かつ、恐怖が降り注ぐ「ミーガン」、現在公開中です。(6月14日掲載)

ライター
関口裕子

関口裕子

せきぐちゆうこ 東京学芸大学卒業。1987年株式会社寺島デザイン研究所入社。90年株式会社キネマ旬報社に入社。2000年に取締役編集長に就任。2007年米エンタテインメント業界紙VARIETYの日本版「バラエティ・ジャパン」編集長に。09年10月株式会社アヴァンティ・プラス設立。19年フリーに。

ライター
和合由依

和合由依

2008年1月10日生まれ。東京2020パラリンピック開会式では、これまで演技経験がなかったものの、片翼の小さな飛行機役を演じ切り、世界中の人々に勇気と感動を与えた。羊膜索症候群、関節拘縮症による上肢下肢の機能障害を抱える。中学時代は吹奏楽部に所属しユーフォニアムを担当。趣味は映画鑑賞のほか歌や絵画。2021年毎日スポーツ人賞文化賞を受賞。24年5月11日(土)よる10時~ 放送、NHK土曜ドラマ「パーセント」に出演。



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