「ありふれた教室」の撮影現場で、イルケル・チャタク監督(中央)の指示を受けるレオニー・ベネシュ(左端)=提供写真

「ありふれた教室」の撮影現場で、イルケル・チャタク監督(中央)の指示を受けるレオニー・ベネシュ(左端)=提供写真

2024.5.22

「出演に誇り」 わかり合えず、爆発寸前の社会に一石投じる「ありふれた教室」レオニー・ベネシュ

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鈴木隆

鈴木隆

「ありふれた教室」は、センセーショナルなサスペンスでありスリラーの一面も包含した社会派作品として、アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされるなど高い評価を受けた。主役の女性教師カーラを演じたのは、レオニー・ベネシュ。ミヒャエル・ハネケ監督の「白いリボン」(2009年)に出演しブレーク、圧倒的な心理表現で作品をけん引した。「この数年で最高のプロジェクト」という本作について聞いた。



カーラは仕事熱心で責任感が強く、新たに赴任した中学校で同僚や生徒の信頼を獲得しつつあった。ある日、校内で相次いでいた盗難事件でカーラの教え子が疑われる。不寛容方式を掲げる校長らの強引な調査に反発したカーラは、犯人を特定しようと財布を入れたままの上着を職員室の椅子にかけ、席を離れてノートパソコンのカメラで盗みを撮影しようとする。お金は抜き取られ、顔は分からなかったが、映っていた星の模様のブラウスから事務員のクーンを疑う。クーンは全面否定して激高。盗みと盗撮はクーンの息子を巻き込む大事件に広がっていく。
 

「観察眼が鋭く知的」脚本と監督に全幅の信頼

「脚本を読んでまず、セリフにひかれた。言葉の使い方がすばらしく、展開も早い」と一気に前のめりになった。イルケル・チャタク監督とヨハネス・ドゥンカーとの共同脚本。「実際に起こったことだと思えるほどリアル。観察眼が鋭く知的な脚本」と絶賛した。チャタク監督にも興味があり「ぜひ参加したい」と思ったそうだ。

カーラの心理はめまぐるしく変わるし、感情を抑制するシーンも多い。どう演じようと考えたか聞いてみると、間髪入れずに明快な言葉が返ってきた。「疑問に思うことは全くなかった。脚本に全部書かれていた。彼女がプライベートでどんな生活をしているかとかは、観客以上に知らなくていい」と歯切れがいい。「イルケルは何を目指しているかはっきりしていて、人を見る力にたけていた」

具体的にどんなことを指すのか聞いてみた。「カーラはいい先生だ。チャレンジングな仕事を把握し愛していて、楽しんでいる。そして、いつも正しいことをしたい、生徒のいいお手本になりたいと思っている。この二つをまず考えたが、自分で何か作り出す必要はなかった。カーラが(状況の悪化で)崩れかかる時は、声も姿勢もどんどん変わっていくが、それも脚本にあったことをかみ砕いて演じただけ。頭に入れてセリフを言えばいい状態だった」


「ありふれた教室」©ifProductions_JudithKaufmann© if… roductionsZDFarte MMXXII

安易な答えは出さない

オーディションを受けた時、チャタク監督に「私にとって、盗みか監視か、話の中心となるポイントが明確ではない」と聞いてみたという。そこでチャタク監督と話し合ったのは「うまく完成すればディベート社会に一石を投じるのではないか」ということだった。その中身はこういうことだ。「今の社会は、みんなが相手につかみかかるくらいのディベートをする。本来は、お互いに譲り合い、分かりあうために議論をすべきだがそうはなっていない。今にも爆発しそうになっている」

SNSの普及との関連を尋ねると「言い合いがエスカレートして歯止めが利かなくなっている」と話した。そのうえで「この作品で解決方法は示されないし、安易な答えは出していない。解釈は一人一人考えてほしい。文化が異なる国でも、共感できる部分はきっとある」。映画の中で、盗みをしたのは誰か、クーンやオスカーがどうなるかは明示されない。「よくできたエンディング。誰が犯人かなんて重要なことでしょうか」と問いを投げかけた。


「誰が携わっているか」にこだわりたい

出演したこと、作品自体を誇りに思っているという。「全員がお金のためではなく、妥協せずに作りたいものを作ろうという姿勢で臨めたからだ。小さな作品で、成功するかもわからなかったが、信念に基づいて作ることの重要性を深く感じた。素晴らしい人たちと仕事をすることで、自分も成長すると実感できた」

実はこの作品の前にテレビの大作ドラマに長い期間、出演していた。「スタッフらが250人もいる現場で、求められた演技をするものだった」。しかし「ありふれた教室」では「自分たちでクリエーティブな何かを生み出さなければいけない部分があって、その意味でルーツに戻った感じがした」。演劇学校に通っていた時の感覚で「空間の中でどのように体を使っていくか、いろいろ試みた現場だった」と納得した表情を浮かべた。

本作でドイツ映画賞主演女優賞などを受賞した。今、大切に考えているのは「誰がその映画に携わっているか、彼らは面白い人たちか、何を作りたいのか、それは世の中にとって面白いと思ってもらえることか」だと言葉に力を込めた。「誰が携わっているかは、もしかしたらプロットより大事とも思う」。そこで、一緒に作りたい監督を聞いてみたら、即座に「落下の解剖学」の「ジュスティーヌ・トリエ」の名前が返ってきた。

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ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

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  • 「ありふれた教室」の レオニー・ベネシュ
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