「ボブ・マーリー/ONE LOVE」のレイナルド・マーカス・グリーン監督=下元優子撮影

「ボブ・マーリー/ONE LOVE」のレイナルド・マーカス・グリーン監督=下元優子撮影

2024.5.25

「音楽で世界を変えた。今こそボブ・マーリーの愛を」家族とともに描いた真実の姿 レイナルド・マーカス・グリーン監督

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鈴木隆

鈴木隆

ジャマイカが生んだ世界的スターで伝説のレゲエ・ミュージシャン、ボブ・マーリーの波乱に満ちた人生を映画化した音楽伝記映画「ボブ・マーリー ONE LOVE」。プロデューサーにはボブ・マーリーの妻リタ、息子ジギー、娘セデラが名を連ね、政情不安が激しかった当時のジャマイカで果たしたボブの役割、ミュージシャンとして世界的人気を得た過程を映画化した。監督のレイナルド・マーカス・グリーンは、ボブについての決定版と言われる評伝や伝記を読み込み、家族らからたっぷり話を聞き、その人間像に迫った。


現場につききり「本物にしてくれた」

1976年12月5日、ボブ・マーリーが企画した「スマイル・ジャマイカ・コンサート」は国内で対立する二つの政党に平和を呼びかけるのが趣旨だった。しかし公演2日前の夜、リハーサル中のボブらを侵入者が襲撃。マネジャーのドン・キンジーがわき腹などに5発、ボブの妻リタも頭を撃たれる重傷を負い、ボブを狙った銃弾も肋骨(ろっこつ)をかすめた。しかし2日後、ボブはけがを押してコンサートに出演し、終了後ロンドンに逃れる。ボブはヨーロッパツアーなどを経て、世界的スターへの階段を駆け上がっていくが、母国ジャマイカの政情はさらに不安定となり内戦の危機が迫っていた。

実話の映画化である。ボブにまつわるエピソードも可能な限り忠実に描いた。「ただ、スクリーン映えすることも念頭に置いた。同じ時間、同じ場所、同じ構図ではなくても、重要なことは再現した」。例えば、コンサートの前に襲撃された時、事件がキッチンで起こったこと以外に何も資料は残っていなかった。「犯人がどこから発砲したかなど分かっておらず、どこまでドラマ性を加えて描くか考えた」

ボブをリアルに描くうえでは、家族がプロデューサーだったことは心強かった。どんな要求があったのだろうか。「撮影現場にジギーがいてくれたことは製作上不可欠だった。当時を知る人が毎日現場に来て、映画を本物にしてくれた」。歩き方や話し方、どれもが重要な指摘だった。「家族からは『真実を描いてほしい』と言われたが、細かい指示はほとんどなかった。ボブはお酒はたしなむが深酒はしないとか。もう一つ、彼が人生で大事にしていたスピリチュアリティー、信仰や精神性をしっかり組み込んだ。それは家族も僕も共通の認識だった」


「ボブ・マーリー/ONE LOVE」© 2023 PARAMOUNT PICTURES

スピリチュアルなところへ導いた妻リタ

ボブの36年余りの生涯の中で、映画が主に描くのは「スマイル・ジャマイカ・コンサート」の前後とその後だ。人生の終盤に絞り込んだのはなぜだったのか。「彼の人生の中で最も大きな転換期で多くのことが起こる。いわば激動の時期でドラマ化しやすいと考えた。殺されかけてロンドンに逃げ、そこで彼の名を世界にとどろかす名盤『エクソダス』を作った。がんが発覚したのもこの時期。そう考えると、ここしかないと思うのは当然のことだった」

ほぼ全編に彼の音楽が流れ、ドラマとしてのメリハリもある。音楽と政治的メッセージにあふれている。「ボブ自身が多面的。夫であり、父親であり、アーティストであり、忘れられがちだが、革命家でもあった。自分の音楽を通じて社会を変え、世界に変化をもたらした。その陰には妻のリタの存在があった」。グリーン監督は「自分も知らなかったことだが」として「ボブをラスタファリ主義運動に導いたのはリタで、スピリチュアルな部分を含め、ボブを描くには信仰は不可欠だった」と話した。

グリーン監督は「さらに」と言って言葉をつないだ。「映画を見た人が今まで聞き流して、理解できなかった歌詞の意味やその背後のエピソード、彼に何が起きてどんな思いで曲を作り、歌っていたか、きっちり受け止めてほしい」と創作意図の一端を明かした。


映画も日本食のようなもの

グリーン監督は、「ドリームプラン」(21年)で、女子テニスプレーヤーのビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を育てあげた父親の実話を描いた。自身のスタイルについて「僕は監督としては、ナチュラルでリアルに撮るタイプ。今そこで起きていることを見ているように撮りたい。いかにも取ってつけたようなカメラ位置、大げさすぎる演技は好まず、美術やライティング、デザインにもこだわった」と話す。ボブが作曲しているシーンでも「今そこで本当に作曲していると感じられるよう、リアルに、流れるように撮った」。ロベルト・ロッセリーニ監督らイタリアのネオリアリズモの映画を見て育ち特に影響を受けたという。

日本公開の1週間前に来日。キャンペーンや観光を楽しみながら日本食も満喫した。「ある店で、芸術のような一皿の料理を2分で食べてしまったが、どれだけの腕と手間が詰め込まれているか考えた。映画もそういうものではないか。裏方の工夫や努力が見えなくても、観客がすべてを理解しなくても、素晴らしいものを見たと思ってくれたら最高の結果。この作品がそうであることを願いたい」とすがすがしい表情を浮かべた。

争いを拒否し愛と平和を希求し続けたボブ・マーリーが、映画の公開とともにクローズアップされている。「私はボブが亡くなった年に生まれたので、実際の彼は知らない。家族のサポートで彼をスクリーンに残すことで、新しい世代に彼のレガシー、遺産を受け継ぎ伝えていく。その役目を少しでも担えたら光栄だ。今、世界は分断されて争いや戦争が絶えない。こういう時代だからこそ、シンプルだがボブの愛、平和、団結のメッセージが心に響いてほしいと願う」

祈りも込めて作られたこの作品を、もしもボブが見たら何というだろうか。「彼は自分にも厳しい人だったから、最初から批判的、疑いの目で見ると思う。でも『よく頑張った、精いっぱいやったな、努力は認めよう』と納得してくれることを願ってるよ」とほほ笑んだ。

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ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

カメラマン
下元優子

下元優子

1981年生まれ。写真家。東京都出身。公益社団法人日本広告写真家協会APA正会員。写真家HASEO氏に師事

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