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2023.6.09
GW、40億円超え邦画実写No.1興収「劇場版『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』」の大ヒットの理由は〝IP〟! 担当プロデューサーが語る
「特別なことは行わず、テレビ映画の王道の宣伝をやりました」
TBSテレビの渡辺匠さんはリラックスした表情で話し始めた。ゴールデンウイーク(GW)の邦画実写興行1位で、現在興行収入40億円を超える「劇場版『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』」のプロデュースをした渡辺さんは総合編成本部IP戦略推進部次長兼メディアビジネス局映画・アニメ事業部兼ライブエンタテインメント局eスポーツ研究所という長い長い肩書を持っている。
「劇場版『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』」のTシャツを着てインタビューに答える渡辺匠さん=撮影:宮脇祐介
ヒーロー物のような展開
TBS日曜劇場で放送されたオリジナルドラマ「TOKYO MER〜走る緊急救命室〜」。監督・脚本・プロデューサーは連ドラの制作チームが引き続き担当。劇場版の製作決定と同時に渡辺さんら映画事業部の面々も参戦し、公開に向けて1年半以上もの間、さまざまな努力を積み上げてきた。
「テレビで見ていた時は、日曜劇場に架空の車が登場し、主人公・喜多見幸太(鈴木亮平)をはじめとしてMERの7人のキャラクターがはっきりしていて、スーパー戦隊、ウルトラマン、仮面ライダーシリーズなどのヒーロー物のような展開だと思った」そうだ。そんな渡辺さんの感想の通りに視聴傾向が表れていった。「日曜劇場は家族視聴に適した上質なドラマを放映しようとする枠で、特に働く人たちが主人公に思い入れを持って見て、スッキリして月曜日を迎えるドラマが多かった印象。MERは医療モノということで初めは年配層が多かったが、回を重ねるうちに子供まで年齢層が広がっていった」
全社で取り組むプロジェクト
視聴率も好調で映画化が決まった。この作品は社内の注力コンテンツの認定を受け全社で取り組むプロジェクトとなった。「『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE-』、『ラーゲリより愛を込めて』に続いて3本目の映画になる。TBSとしても勝負をかけるべきコンテンツとして、リスクを負うことになるものの、自社の出資比率を大幅にあげて臨むことになった」。
映画のプロデューサーには映画・アニメ部で百戦錬磨の辻本珠子らも加わり映画宣伝が始まった。「クリエーティブはテレビプロデューサー、宣伝は映画プロデューサーという一定のすみ分けはあるが、その上で有機的につなげることができた」と語る。
虚実が一体となる展開
「ドラマからのコアなファン層の熱い支持に加えて、映画では架空の車〝T01〟が、リアルに存在する〝横浜ランドマークタワー〟に出現するストーリー。この虚実が一体となる展開、これが良かったと思っている。事故のシーンにもかかわらず、行政や三菱地所、地元の皆さまなど多くの方々が協力してくださった」と、ランドマークタワーの火災やさくら通りを全面封鎖し、300人を超えるエキストラが避難するシーンなど大規模な企画・撮影の当時を振り返った。
映画は一作一作が作品、テレビシリーズはIP
「今回は新型コロナウイルス5類への移行を控え、俳優さんの協力も大きく、リアルイベントを打てたことも大きかった」
「『TOKYO MER』赤坂ミッション~HEROを体験せよ!~」ではTBS前に撮影に使った〝T01〟と東京消防庁の〝全地形活動車〟の搭乗体験を中心に、ドラマの名セリフを再現するブースなど、「親子で楽しめる」をテーマにイベントを行った。「より多くのお客様に劇場に足を運んでいただくために、親子層は重要なターゲット。お子さんも、親御さんも双方が楽しめるイベントを目指した結果、〝T01〟の搭乗体験には2時間半以上待ちの長い列。親子連れだけでなく、MERメンバーのコスプレをするなど熱の高いファンが多く訪れた」
TBS前の〝T01〟の搭乗体験には長蛇の列が出来る=提供:TBSテレビ
「また、みなとみらい全域を巻き込んだイベントも開催。メインキャストのサプライズ登場なども奏功し、展示ブースもグッズ売り場も長蛇の列だった」
みなとみらいミッションで行われたキャストのサプライズ登場=提供:TBSテレビ
なんだかアベンジャーズみたいな盛り上がりですね?と問うと「映画は一作一作を作品と捉えているものが多いが、テレビシリーズはマーベル・シネマティック・ユニバースのようにIP(知的財産)の要素が強いと思う」と答えてくれた。グッズが早々に完売したこともその表れと言えそうだ。
特別なことといえば来場者プレゼント
他にもセットやキャストを3Dスキャンしたフォトリアルなメタバース空間を作り、コアなファンとのコミュケーションをはかった。「ネット環境と好きという気持ちがあれば瞬時につながれることが大きかった」
劇場版「TOKYO MER〜走る緊急救命室〜」メタバースメイン画像
テレビシリーズの映画化は他のテレビ局に取り上げてもらうのは難しいし、単体では楽しみ切れないため映画賞の対象にもなりづらい。「数多くの自局の番組でなんらかの宣伝に協力してもらった。それが大ヒットにつながったので『テレビの影響力がまだまだある』と局員の士気も上がったのではないか。TBSグループの総合力が生んだ成果だと思う」と喜びの表情を浮かべる。
「唯一、特別なことといえば、アニメーション映画では常道の来場者プレゼントをして、名セリフのステッカーを配ったこと。実写映画では珍しい展開。ただ、グッズ売り上げやイベントの盛況ぶりから、通常の実写作品とは違うファンの熱量の高さを感じたため挑戦してみた」
「このIPがいつか世界に広がることを望んでいる」と渡辺さん。「海外番組販売も積極的に行っている」と結んだ。
取材ののちの帰り道で名刺を見返して、そういえばこの映画は最初に記した渡辺さんの肩書が全て生かされた展開なのだと、大いに腑(ふ)に落ちた。実は渡辺さん携帯電話会社、銀行を経て2019年TBSテレビに入社した。「アメリカの大学で学んだ映画を仕事にしないと一生後悔する」との思いからの転職だったという言葉が同時に思い出された。