「その恋、断固お断りします」の一場面

「その恋、断固お断りします」の一場面

2023.3.13

気軽に見ると楽しめる、安定の韓国発ラブコメ「その恋、断固お断りします」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

大野友嘉子

大野友嘉子

一見すると、安定のラブコメだ。ツンデレ男性と、勝ち気な女性の恋愛を描いたドラマ「その恋、断固お断りします」は、明るく、テンポが良く、深く考えなければ全10話をイッキ見できる。だけど、「ちょっと甘いんじゃない?」というのが私の正直な感想だ。


男勝りな女性弁護士と女嫌いの男性俳優が出会いひかれ合う

主人公の弁護士ヨ・ミラン(キム・オクビン)は正義感が強く、サバサバしていて、スポーツ万能。奔放な男性関係を持ちながら、それを隠さない豪胆な性格をしている。いわゆる「男勝り」というやつだ。亭主関白で家父長的な父親への反発から、男女平等、女性の権利に一家言がある。
 
物語は、ミランがエンタメ専門の弁護士事務所に唯一の女性として入所するところから始まる。持ち前の運動能力を生かしたパワフルな宴会芸を披露したり、アクションノワール作品のスタントウーマンに抜てきされたりと、ニッチな方面で大活躍する。
 
クライアントの一人、俳優のナム・ガンホ(ユ・テオ)は、ラブロマンスの人気スター。「メロ職人」「キス職人」ともてはやされ、共演者やスタッフへの対応の良さから「美談製造機」の異名を持つが、実は大の女嫌い。
 
かつて恋人に裏切られたトラウマから、セクハラを訴えた女性のニュースにかみつくなど、ほとんどミソジニー状態に陥っている。共演する女性とのキスシーンの後、えずきながら歯磨きをするシーンは爆笑ものだ。
 
正反対の2人は当然、反目する。互いを軽蔑し、煙たがるが、仕事で関わるうちに徐々に相手を理解し、かれ合う――という「いつもの」筋書きだ。
 

人気俳優、ガンホ役のロールモデルは、ヒョンビンが演じてきたキャラクター

 ユ・テオは、ガンホを演じるにあたり、ヒョンビンをロールモデルにしたと明かしている。ヒョンビンがドラマ「シークレット・ガーデン」(2010年)で好演したデパートの御曹司、キム・ジュウォンを参考にしたそうだ。自他共に認めるルックスの良さを鼻に掛け、経営手腕に自信を持つが、女性には淡泊(おまけに過去の出来事を引きずっている)ジュウォンは、確かにガンホと重なる。
 
ジュウォンに限らず、この手の男性キャラクターは韓ドラの常連である。ハイスペで恋愛には淡泊、ナルシストだけど実は優しい。こうした似たキャラクターや設定を、手を替え品を替えてヒットさせる手法は相変わらず見事だ。韓国ドラマ界のお家芸と言っていい。
 

深く考えずに楽しめるが、女性の描き方には気になるところも

 気軽に楽しめるオーソドックスな韓ドラだが、個人的にはモヤモヤした。本作の女性差別の問題の取り上げ方が気になるのだ。
 
ジェンダーを副次的、あるいは主要なテーマに据えるドラマは今や当たり前のようにある。なかでも、本作とはテイストは違うが、#Me Tooムーブメントを反映した「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」(18年)、シングルマザーや職業への偏見、ハラスメントを正面から描いた「椿の花咲く頃」(19年)は秀逸だった。
 
さらにさかのぼると、ヒョンビンの出世作「私の名前はキム・サムスン」(05年)がある。女性の体や顔、年齢についてあれこれ言う風潮を批判した同作は、女性の生きづらさを映し出すドラマのパイオニア的存在だ。ちなみに、サムスンを演じたキム・ソナは、役作りのために体重を8㌔増やしたと語っている。ルッキズムに挑む同作の本気度を推して知るべし、である。
 
本作で気になったことの一つは、ミランのキャラクターだ。「強い女性=男っぽい」という設定があまりにも安易で、古くさい。分かりやすさを追求したのかもしれないが、画一的なキャラクター設定そのものが偏見の一端を担いでいるように思う。
 
「男勝り」は肯定的な意味合いがあるが、逆はどうか。「女々しい」「女の腐ったよう」のように、「女」がつく言葉に侮辱的な意味合いがあるのはなぜか。ミランの描き方に、こうした性別を用いた言葉の落差を感じざるを得ない。
 
また、ラストでミランの奔放な男性遍歴を、美談にしたことにも強い違和感を覚えた。ミランは、多くの男性と一夜限りの関係を繰り返していたことを、隠してこなかった。しかし、ガンホとの交際が明らかになり、そのことがスキャンダラスに報じられ、バッシングを受けると、元カレがテレビ番組に出演して彼女を擁護する。人助けのためにしていただけなの、と。
 
こじつけもいいところだ。ミランが複数の男性と関係を持つ理由は、1話目ではっきりと示されていた。元カレが示した「美談」とは全く関係がないはずだ。なぜ、本当の理由ではダメなのか。まるで人情話でもなければ、奔放に振る舞ってはいけないという暗黙のルールでもあるようだ。
 
仮に「人助けのため」というワケがあったとして、元カレが勝手に代弁するのはいかがなものか。男性社会で堂々と働き、女性の声を大切にしてきたミランだ。彼女の信条に照らし合わせれば、プライベートなことを世間に対して説明するかどうかも含め、自分で決めるべきだろう。それなのに、ミランは元カレの(勝手な)アシストに感謝する。「結局、男性に助けてもらうのね?」と思わずツッコミを入れてしまった。
 
厳しめな評価になったけれど、茶々を入れながら観賞するのも一つの楽しみ方かもしれない。ハラハラする展開がない分、「ミランって、いつ弁護士活動しているの?」といった素朴な疑問も浮かんでくる。
 
「その恋、断固お断りします」はNetflixで配信中


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ライター
大野友嘉子

大野友嘉子

おおの・ゆかこ 毎日新聞くらし科学環境部記者。2009年に入社し、津支局や中部報道センターなどを経て現職。へそ曲がりな性格だと言われるが、「愛の不時着」とBTSにハマる。尊敬する人は太田光とキング牧師。ツイッター(@yukako_ohno)でたまにつぶやいている。