「ポム・プリゾニエール」著者:煮ル果実 1,650円(本体1,500円+税) KADOKAWA

「ポム・プリゾニエール」著者:煮ル果実 1,650円(本体1,500円+税) KADOKAWA

2024.4.02

「音楽」×「小説」の新境地 ボカロP・煮ル果実「ポム・プリゾニエール」より「トラフィック・ジャム」

出版社が映画化したい!と妄想している原作本を担当者が紹介。近い将来、この作品が映画化されるかも。
皆様ぜひとも映画好きの先買い読書をお楽しみください。

ひとしねま

熊倉由貴

音楽と小説のコラボと言われて、最初に何をイメージしますか? 小説から音楽を作る、あの有名アーティストでしょうか? それとも、学生時代にはやっていた音楽のノベライズでしょうか?

ここでは、異色のボカロP・煮ル果実さんが「抜け出すこと」をテーマに紡いだ3編を収録した小説短編集「ポム・プリゾニエール」より、「トラフィック・ジャム」をご紹介します。「出たよボカロ小説」と思って読み始めたら、度肝を抜かれること間違いなし。まさかの展開に絶句する未来が待っています。映画化したら、前代未聞の怪作に?! どうか元気な時に、覚悟を決めてお読みください。

味気ない日々からの急転

主人公は、生活保護受給者を支援するケースワーカー。後輩の佐竹を車に乗せ、保護受給者の訪問から帰る場面で、物語は始まります。彼とのつまらない会話に飽き飽きしていたところで飛び出した「実は先輩の彼女さんのアカウント、多分なんすけど特定したんすよね」という発言。焦りに我を忘れた主人公は、ハンドルを握る手を制御できなくなり、交通事故を起こします。

目覚めた世界では——

覚醒した主人公がいたのは、なぜかいつもの職場。しかし、様子がおかしい。佐竹のデスクがもぬけの殻だ。係長に恐る恐る聞いたところ、「佐竹君はもう二か月前に亡くなってるでしょ。君の運転で、訪問の帰りに発生した事故のせいでさ」との返答。そこからひょう変した係長に追われ、主人公が逃げ惑う様子は、さながらパニックムービーのよう。慌てて街へ逃げ出しても、目に黄色と黒の〝警告色 〟を浮かべた、警官が、猫が、市民が、主人公に襲い掛かります。そして、この途方もないフィクションは、読者のすぐ隣に潜んでいる問題へと収束していくのです。

SNSで広がる虚偽の情報

本作では、根も葉もないうわさ話をまことしやかに拡散する民衆が、寓話(ぐうわ)的に描かれています。そして我々もまた、そんな民衆の一人であることを突きつけられ・・・・・・強烈な言葉たちが、最後まであなたを離しません。SNSでの誹謗(ひぼう)中傷という現代的なテーマと、警告色から逃げ惑う主人公の一周回ったコメディー感。まさに、社会性とエンタメ性が両立した、今求められている映画が出来上がるのではないでしょうか?

楽曲との関係性

本作は、煮ル果実さんが自身作詞作曲の楽曲「トラフィック・ジャム」の世界観やテーマをもとに紡いだ物語です。しかしながら、ただミュージックビデオの内容を膨らませた作品ではありません。楽曲を知らなくても一つの小説として楽しめ、読後に楽曲を聴くとさらに解釈が深まる、新感覚の物語となっております。さらに、紙書籍には色を使ったある仕掛けが……この作品で、音楽と小説が織りなす唯一無二の世界に迷い込んでみてはいかがでしょうか?
 
著者の煮ル果実さんの脳内には、当初から「実写映画」のイメージがあったという本作。楽曲→ミュージックビデオ→小説、と拡張されてきた世界観を映画にするのは、かつてなく刺激的な試みになるかと思います。主題歌をベースにした映画化という新しさで、若者を中心に話題になること必至の一作です。また小説単体でも、こんなに絵が浮かぶ作品は他に見たことがなく、映像化されて夢に出てきて編集担当が困ったくらいでした。これは観客に衝撃を与えるすさまじい映画になりそうです。加えて、煮ル果実さんがキャラクターを創り上げる際に当てはめていたキャスティングがあまりにも魅力的で……いったい誰なのか、ぜひ予想しながら読んでみていただけるとうれしいです!
 
鬼才の新人作家による「ダークな喜劇」を、ぜひ見届けてください。

「ポム・プリゾニエール」特設サイトhttps://kadobun.jp/special/nilfruits/pomme-prisonniere/
「トラフィック・ジャム」原曲MV


ライター
ひとしねま

熊倉由貴

くまくら・ゆき 2022年度にKADOKAWAに入社し、ライフスタイル編集部に所属。日常の中に心奪われる体験を創出することを目標に、小説からビジネス書まで幅広く担当。「ポム・プリゾニエール」は、煮ル果実さんがホームページに掲載していた小説「ナイトルール」に感銘を受け、声をかけたことで生まれた。

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  • 「ポム・プリゾニエール」著者:煮ル果実
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