出版社が映画化したい!と妄想している原作本を担当者が紹介。近い将来、この作品が映画化されるかも。
皆様ぜひとも映画好きの先買い読書をお楽しみください。
2023.10.29
なぜ「遺体なき殺人事件」が解決困難なのか?「宿罪」本城雅人
新聞記者として活躍した本城雅人氏だからこそ描けた、警察小説の新シリーズ、「二係捜査」の第一作「宿罪」の魅力を紹介していきます。
最も解決困難な「遺体なき殺人事件」を追う、刑事と新聞記者の新たな物語
なぜ「遺体なき殺人事件」が解決困難なのか。それは1971年に発生した大久保清による8人の女性殺害事件に端を発する。大久保事件は、8人の行方不明者がありながら、警察は本格的な捜査を行うことができなかった。それは最初の被害者の遺体が発見されるまで続くことになった。遺体が発見されなければ、立証も難しい。それがこの種の事件の難しさだ。
本作で本城氏が描く主人公は、その「遺体なき殺人事件」を専任とする、「二係捜査」の信楽京介と森内洸だ。彼らは、行方不明者と事件のわずかな「端緒」を見つけ、犯人の手掛かりを探し出す。それは、膨大な数のパズルから1ピースを見つけ出す、気の遠くなるような仕事だ。
そしてもう一人、信楽が手掛ける事件に注目する新聞記者・藤瀬祐里が登場する。藤瀬は、スクープを狙うため、信楽に接近するが、「刑事」と「記者」の間には、信頼関係が必要であることに気づく。彼らが追うのは、15年前に行方不明となった女子高生の事件だ──。
同僚を助けられなかった後悔から再捜査へ
東京の町田市で女子高生の清里千尋が突如失踪した。彼女は、素行の悪いグループのリーダー格だったが、町田署生活安全課の水谷早苗と出会い、更生して新たな道を歩みはじめた直後の出来事だった。それから15年間、千尋をずっと捜していた水谷は、病に倒れ、帰らぬ人となった。その水谷の葬儀から物語がはじまる。
水谷のかつての同僚だった香田繁樹警部は、水谷の捜査を助けることができなかった後悔から、「遺体なき殺人事件」の専任である警視庁の信楽京介に、再捜査の協力を要請する。
捜査の壁は、思いもよらぬところに
15年の歳月は、僅かな手掛かりさえも奪っていく。さらに清里千尋の乗っていたとされる自転車が発見されたのは、神奈川県警と警視庁の境界付近だったのだ。その不運が、捜査の思わぬ障害となって立ちはだかる。
それぞれの思いが、凍り付いた時を動かしはじめる
忍耐強く冷静に犯人の手掛かりを集めていく信楽。その信楽のやり方に反発を覚え、自分のやり方を模索する森内。一方、記者だからこそできる聞き込みを強行する藤瀬。そして、15冊に及ぶ「捜査記録」のノートを残した水谷早苗。それぞれの思いが、15年の歳月を経て、驚愕(きょうがく)の事実をあぶり出すラストは、まさに圧巻。本作の一番の読みどころを存分に味わっていただきたいと思う。
3カ月連続で刊行される「二係捜査」シリーズは、今年の注目作で間違いない。