一瞬、何の広告かもわからないスタイリッシュなMUBIの広告。若者へのアピールを向けているのもうかがえる=川原井利奈撮影

一瞬、何の広告かもわからないスタイリッシュなMUBIの広告。若者へのアピールを向けているのもうかがえる=川原井利奈撮影

2024.5.27

配給、興行関係者必読! 集客効果抜群MUBI GOの絶妙システムとは!? ロンドン映画探訪記

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ひとしねま

川原井利奈

イギリスの映画配給会社MUBIをご存じだろうか。北米ではA24やNeonといった独立系の配給会社が手がける作品をロンドンで鑑賞すると、かなりの割合でMUBIが配給している。動画配信サービスとしてスタートしたこの会社は、アメリカのクライテリオンのような、映画好きのためのプラットフォームだった。

それが、近年著しい成長を果たし、ワールドセールス会社マッチファクトリーの買収、さらには世界主要都市にMUBIの映画館を作る予定だとも発表した(この主要都市には、東京も含まれている)。将来的には、製作、配給、興行まで一貫して行う大きなスタジオになる目標を掲げている。ロンドンではすでに配給会社として定着し、こちらの映画好きならその名を知らぬ者はいない。街中でMUBIのトートバッグを使用している人たちも頻繁に見かける。恥ずかしながら、私もその一人である。

会員なら「今週の1本」無料で鑑賞

私も、MUBIにはお世話になっている、なりまくっている。MUBIの動画配信サービスを利用するだけでなく、サブスクリプション に追加料金を払って「MUBI GO」に加入している。MUBI GOは、映画館と連携した映画チケットサービスだ。毎週金曜日、MUBIが選んだ「今週の1本」のタイトルが送られてくる。利用者はこの作品を、映画館にて無料で鑑賞できるのだ。上映館はリスト化されて示され、利用者は都合に合う場所と時間の映画館を選ぶことができる。しかしその1本が見られる期限は1週間のみ。翌週には違う作品に変わっている。

観客としては、これほどお得で使いやすく、自由で便利なものはない。そもそもMUBIのセレクションは信頼が置ける。最近の配給作品でいえば「aftersun/アフターサン」「CLOSE/クロース」「PERFECT DAYS」「プリシラ」「わたしは最悪。」など、ハズレなし。MUBI GOはイギリス全土で使用できるようになっていて、ヨーロッパ各地にも広がりを見せている。ロンドンを離れた地方でそのアプリを開くと、土地に合わせて「今週の1本」が変わり、最寄りの映画館も丁寧に教えてくれる。しかもMUBI配給作品にとどまらず、MUBIと提携した配給会社や、配給を行っている映画館の作品を見られる可能性もある。

利用料は月19ポンドほど(約3600円)。割高のようだが、ロンドンの映画館入場料の平均は10〜20ポンドなので、月に1度、サービスを利用すれば十二分にお得なのだ(MUBI単体のサブスクリプション料金は月12ポンドほど)。無料でチケットを発行して、映画館側にメリットはあるのか? そんな疑問が浮かぶが、おそらくMUBI GOを利用する観客の数に応じて、MUBI側が映画館にインセンティブを支払っているはずだ。


筆者愛用のMUBIトートバッグ。オンラインでの取り扱いもあるが、購入できる地域が限られているようだ=川原井利奈撮影

有料の一般客減らさない仕組み

ロンドンの映画館事情も日本と変わらず、平日、特に昼間の客足はかなり厳しい。夕方以降でも、混み合っている上映に出くわす方が珍しい。そんな中、MUBI GOの利用者が映画館を訪れ、ポップコーンをついでに頼めば、映画館としてはありがたいことだろう。一方で、オンラインチケットの事前確保は不可、当日窓口のみの利用だから、人気作や週末など混雑しそうな場合には、映画館は一般客のための席を確保できる。

また「来週の映画」しか知らされない故に、「再来週の映画」は予測ができない。基本的には公開初週の映画がラインアップされるが、例外も多い。たとえば「哀れなるものたち」は公開2週間後にラインアップされた。「初週に見たい」という映画ファンや、「『哀れなるものたち』はMUBI GOのラインアップに入らない」と踏んだ人たちは、しっかりお金を払って見たという訳だ。

予約不可、チケット争奪戦に

こんなお得な制度が知れ渡らないはずがなく、近ごろは席の争奪戦が起こる。前述の通り事前に席を取れるシステムではないので、インディペンデント作品の夕方以降の上映回は満席になることも。平日はオフィスワークとなった筆者は、鑑賞を見送ることもしばしばだ。

チェーンの映画館でも全ての上映館がリストに載っているわけではなく、比較的スクリーン数が多く、キャパの大きいところが契約しているようだ。またMUBI GOを持っている友人、カップルが気軽に映画鑑賞をできるのも、フード、ドリンクの販売促進につながるはずだ。

参照:https://variety.com/2022/film/global/mubi-strategy-efe-cakarel-toronto-decision-to-leave-1235369417/

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ライター
ひとしねま

川原井利奈

かわらい・りな ライター。映画配給会社勤務を経て、現在はロンドン在住。

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  • 一瞬、何の広告かもわからないスタイリッシュなMUBIの広告。若者へのアピールを向けているのもうかがえる=川原井利奈撮影
  • ロンドン市内を走るバスにもMUBI GOの広告が。一部隠れてしまったが「GO SEE A MOVIE」の文字が見える
  • 愛用のMUBIトートバッグ。オンラインでの取り扱いもあるが、購入できる地域が限られているようだ
  • BFI SouthbankでのMUBI GOの広告を発見。お得が過ぎるので、劇場側が積極的に宣伝しているイメージはあまりない
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