第76回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞し、トロフィーを手にスピーチする役所広司=2023年5月28日、ロイター

第76回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞し、トロフィーを手にスピーチする役所広司=2023年5月28日、ロイター

2023.5.28

世界が納得 役所広司「パーフェクトデイズ」で男優賞 「柳楽くんに追いついたかな」

第76回カンヌ国際映画祭が、5月16日から27日まで開催されます。パルムドールを競うコンペティション部門には、日本から是枝裕和監督の「怪物」、ドイツのビム・ベンダース監督が日本で撮影し役所広司が主演した「パーフェクトデイズ」が出品され、賞の行方がきになるところ。北野武監督の「首」も「カンヌ・プレミア」部門で上映されるなど、日本関連の作品が注目を集めそう。ひとシネマでは、映画界最大のお祭りを、編集長の勝田友巳が現地からリポートします。

勝田友巳

勝田友巳

第76回カンヌ国際映画祭で、「パーフェクトデイズ」の役所広司が男優賞を受賞した。日本人の男優賞は2004年「誰も知らない」の柳楽優弥以来で、「これで柳楽優弥くんに追いついたかな」とジョーク交じりに喜びを表現した。海外でも著名な役所の受賞は遅すぎたくらいで、満を持しての男優賞となった。

 
第76回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞し、記者会見で笑顔で質問に答える役所広司=2023年5月28日、勝田友巳撮影

「ブラボー」の声と大拍手

授賞式でコンペティション部門各賞の中で、男優賞は最初の発表だった。審査員のフランス人俳優、ドゥニ・メノーシェが「コウジ・ヤクショ」と告げると、中継会場の記者から「ブラボー」の声と大きな拍手。授賞式前の下馬評では、役所の名前は男優賞のトップグループ。映画の評価も高く、誰もが納得だった。
 
笑顔で壇上に現れた役所は、プロデューサーや脚本家、ビム・ベンダース監督らスタッフと「心配ばかりかけている事務所のスタッフと妻」に感謝をささげた。受賞者会見でも記者から大拍手を浴び、笑顔で応えた。
 
「パーフェクトデイズ」は東京の公共トイレ清掃員の平山の日常を味わい深く描いた作品。記者会見では「平山は、(公共トイレ清掃員のような)普通の人が見ようとしない人を、よく見る人物。心の余裕がある暮らしをしていると思う」「満たされていると思っているが、過去の地獄から逃れ、そこに戻らないように木漏れ日に守られている」と繊細な造形の一端を明かした。
 

「パーフェクトデイズ」より © 2023 MASTER MIND Ltd.

2日間公共トイレ掃除体験

トイレの掃除はするかと聞かれ「清掃員に2日間、みっちり教わり、撮影中も一つ一つ形の違うトイレの清掃の仕方を教わった。最後は、明日から来てもいいよと言われた」と明かした。
 
記者会見の後には、日本の記者の取材に応じた。「会期中から取材などで褒められて乗せられたので、受賞があるかもしれない、でもそんなこと考えちゃいけないと思っていました。授賞式ではやっぱりダメかなと思ったら名前が呼ばれて、驚いた」と心境を明かした。受賞については「これで柳楽くんに追いついたかな」と笑わせた後で「月並みだけど、この賞に恥じないようにがんばらないといけない」と気を引き締めていた。
 
名実ともに認められ、海外からの出演依頼も増えそうだ。「参加したい思いもあるが、基本的には自分の国の映画で世界の人に楽しんでもらえるのが一番かな」と足元を見つめていた。

 
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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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