「ケイコ 目を澄ませて」©2022 「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会COMME DES CINÉMAS

「ケイコ 目を澄ませて」©2022 「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会COMME DES CINÉMAS

2023.1.18

日本映画大賞に「ケイコ 目を澄ませて」 三宅唱監督「想像こそ映画の魅力」

毎日映画コンクールは、1年間の優れた映画、活躍した映画人を広く顕彰する映画賞。終戦間もなく始まり、映画界を応援し続けている。第77回の受賞作・者が決まった。

勝田友巳

勝田友巳

第77回毎日映画コンクールの受賞作・者が決まった。2022年の公開作には、コロナ禍で製作の中断や公開延期を強いられた作品も多く、内容にも直接、間接の影響がうかがえた。受賞結果には、困難の中で表現に挑む作り手の強い意欲が感じられた。

第77回毎日映画コンクール授賞結果一覧 「ケイコ 目を澄ませて」が5冠

コロナ禍でも表現への思い強く

日本映画大賞の「ケイコ 目を澄ませて」は、実在の女性をモデルとした人間ドラマ。生まれつき耳の聞こえないケイコがジムに通い、プロボクサーとしてリングで戦う姿を、ボクシング映画らしからぬ静けさで描いた。

聴覚障害を持ちながらプロボクサーとしてリングに立った小笠原恵子さんのエッセーが原案。三宅監督は「かっこいいと思った。彼女の世界の感じ方や、人生について考えてみたい」と物語を構想した。また多くのボクシング映画がある中で「新しいことをやりたい」と挑んだ。


日本映画大賞、監督賞を受賞した三宅唱監督=前田梨里子撮影

緊急事態宣言が発令されているさなかに脚本を執筆。職場と家とジムを行き来するケイコの日常を、ジムの会長や同居する弟ら周囲の人物との交わりの中に淡々と描写した。「他者を分かった気になってはいけない」とケイコの心情や背景の説明を最小限にとどめ、ボクシング映画にありがちな努力と勝利という展開も封じた。「完全には理解できなくても、分かろうとすることはできる。彼女が何と戦い、何に悩んでいたか、想像し続けることが映画を見る面白さだと思う」

ケイコを演じた岸井ゆきのさんは、女優主演賞を受賞。トレーニングを積んで撮影に臨み、迷いながら戦うケイコをリアルに体現した。岸井さんは「今まで夢だったことが全部詰まっているような作品。ここですべての私を見せられたらいいなと思っていた」と充実感を表した。


「土を喰らう十二ヵ月」© 2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会

「もっとがんばらないと」男優主演賞 沢田研二

男優主演賞の沢田研二さんは、水上勉のエッセーを基にした「土を喰らう十二ヵ月」で、寒村に一人暮らす初老の作家を丹念に演じた。「賞には縁がないと思っていたが、うれしい。もっとがんばらないと」と喜んだ。

「さがす」で女優助演賞の伊東蒼(あおい)さんは17歳。第72回毎日映コンでスポニチグランプリ新人賞を受賞した。「役として動くのが楽しい」と伸び盛り。男優助演賞は「ある男」の窪田正孝さん。他人になりすまして過去を捨てた男を陰影豊かに表現。「作品や役との出会いに縁を感じる」と語った。


田中絹代賞の寺島しのぶ=丸山博撮影

「身が引き締まる」 田中絹代賞 寺島しのぶ

田中絹代賞は寺島しのぶさん。映画の初主演作「赤目四十八瀧心中未遂」と「キャタピラー」で2度、毎日映コン女優主演賞を受賞。母親の富司純子さんと2代にわたり、田中絹代賞女優となった。「身が引き締まる思い。賞の名に恥じないよう、映画界に少しでも貢献したい」と決意を語った。

ケイコ 目を澄ませて

嘘がつけず愛想笑いが苦手なケイコは、生まれつきの聴覚障害で、両耳とも聞こえない。再開発が進む下町の一角にある小さなボクシングジムで日々鍛錬を重ねる彼女は、プロボクサーとしてリングに立ち続ける。母からは「いつまで続けるつもりなの?」と心配され、言葉にできない想いが心の中に溜まっていく。「一度、お休みしたいです」と書きとめた会長宛ての手紙を出せずにいたある日、ジムが閉鎖されることを知り、ケイコの心が動き出す――。

公開:2022年12月16日
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022 「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

夜明けまでバス停で

2020年に、路上生活者の女性がバス停で殴られ死亡した事件が着想のきっかけ。
居酒屋のアルバイトをしていた三知子(板谷由夏)は、緊急事態宣言が出ると一方的に解雇された。寮を追い出され、住み込みで働くはずだった介護施設も採用を見送り。折り合いの悪い実家にも帰れず、行き場を失って路上生活者となってしまう。行き倒れそうになったところを、公園のテントで生活するバクダン(柄本明)らに助けられた。

©2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

土を喰らう十二ヵ月

作家のツトム(沢田研二)は、長野県の人里離れた山荘で一人暮らし。畑や山で採れた旬の野菜や木の実、キノコを料理して四季を味わっている。時折、担当編集者で恋人の真知子(松たか子)が東京から訪ねてきて一緒に食べる特別な時間を楽しみにしている。一方で、13年前に亡くなった妻の遺骨を墓に納めることができずにいた。

水上勉の料理エッセー「土を喰う日々 わが精進十二ヵ月」を原案に、料理研究家の土井善晴が登場する料理を手がけた。

© 2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

新着記事