「ゴジラ-1.0」©2023 TOHO CO.,LTD.

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2023.11.25

〝オタク臭〟なき怪獣映画「ゴジラ-1.0」 昭和生まれ特オタ記者の感慨と寂しさ

「ゴジラ-1.0」がヒット街道をばく進している。山崎貴監督は1954年公開の「ゴジラ」第1作を強く意識し、終戦直後の日本に「戦争の象徴」としてのゴジラを登場させた。初代ゴジラの生みの親の一人、本多猪四郎監督が1992年10~11月のロングインタビューで語った半生と映画への思いを、未公開の貴重な発言も含めて掲載する。「ゴジラ-1.0」を読み解く手がかりとなるコラムと合わせて、どうぞ。

神保忠弘

神保忠弘

「ゴジラ-1.0」は特オタ(特撮オタク)の臭いがしない。これって、けっこう新鮮なことではないか。少なくとも、特オタの端くれである筆者はそう感じた。

 

1980年代の復活後押し

1984年の復活「ゴジラ」(橋本幸治監督)以降の日本の怪獣映画には、常にどこか特オタ向けの部分があった。キングギドラ、モスラなどおなじみの人気怪獣の登場だけでなく、佐原健二、宝田明、小泉博など往年の特撮映画常連俳優の起用、伊福部昭の音楽、かつての名作のオマージュ的なセリフなどなど――。そもそも80年代にゴジラが復活した原動力の一つが特オタ(当時の呼び名は「マニア」だったが)たちの活発なファン活動だったから、メインの客層に対してのサービスでもあった。
 
さらに昭和30年代生まれの「特オタ第1世代」が作り手の立場になると、作風にも特オタならではの臭いがプンプンし始める。


「俗っぽさ」嫌い「大人の鑑賞に堪える」

彼らの多くは、青年期に世間から「いい年齢になって、いつまで特撮だの怪獣だの幼稚なことにこだわっているんだ」と白眼視された経験を持つ(このコンプレックスの有無が平成以降のオタクとの最大の違いだ)。それだけに彼ら自身が創作者となった時、作品に「子供っぽさ」や「俗っぽさ」が漂うのを嫌った。
 
怪獣映画を「大人の鑑賞に堪えるもの」にするため、怪獣が現れた場合のシミュレーション的描写を緻密に重ねてリアリズムを装い、科学的理屈を連ねてSFの体裁を整え、シリアスなドラマを好む。その嚆矢(こうし)が「ガメラ 大怪獣空中決戦」(95年、金子修介監督)に始まる平成ガメラ3部作であり、集大成が〝最強の昭和特オタ〟というべき庵野秀明総監督(昭和35年生まれ)の「シン・ゴジラ」(2016年)だった。


「-1.0」の朝ドラ的〝フツー〟さ

だが「ゴジラ-1.0」には、こうした特徴がみじんもない。伊福部音楽こそ使ったが、特撮作品系俳優は出てこないし、政治家や官僚が右往左往するシミュレーション的描写も、小難しいSF設定もない。占領期の日本を舞台にしながらGHQ(連合国軍総司令部)の存在感がゼロなど、世界観はわりと大ざっぱだ。ゴジラによるスペクタクル部分(意外に時間は短い)を除けば、中心となるのは市井の人である主人公の心の葛藤、周囲の人々との摩擦や結びつき、苦難を乗り越えての成長など、キャスティングも含めてNHKの朝ドラ的な「フツーのドラマ」で、少しもオタク的ではない。
 
山崎貴監督が意識的に「シン・ゴジラ」と正反対のアプローチを選んだことは確かだが、そもそも山崎監督はゴジラ好きではあっても、日本の特撮怪獣映画に特別な思い入れはないだろう。最も影響を受けた映画は「スター・ウォーズ」(77年、ジョージ・ルーカス監督)と「未知との遭遇」(同、スティーブン・スピルバーグ監督)であり、目指すところはハリウッド的なエンターテインメント。それは自作において「特撮」の表記を使わず、常に「VFX」としていることからも明らかだ。だからゴジラ映画を撮るにあたっても特に気負うことなく、特オタにも気を使わず、いかに多くの観客に受けるかにだけ注力したと思う。
 
「シン・ゴジラ」は福島原発事故を想起させる設定がタイムリーだったこともあって大ヒットしたけれども、本質は特オタ向けのカルト作品だったと考える(その傾向は「シン・ウルトラマン」「シン・仮面ライダー」とどんどん強まっている)。一方で「ゴジラ-1.0」の世間での受け入れられ方を見ると、怪獣映画が今後生き延びるには、庵野路線ではなく、良くも悪くも「俗っぽい」ことで幅広い層にアピールする山崎路線のほうが良いかもしれない。もっとも、それは同時に、長く日本の特撮カルチャーを引っ張ってきた昭和特オタが退場を促されることに通じるわけで、ちょっと寂しくもある。

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ライター
神保忠弘

神保忠弘

じんぼ・ただひろ 毎日新聞社元運動部長、元同部編集委員。仕事につながっていた昭和のプロ野球をはじめ、昭和の芸人、昭和のプロレス、昭和のマンガ、そして何より昭和の特撮を愛する「昭和40年男」。

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