2021年に生誕90周年を迎えた高倉健は、昭和・平成にわたり205本の映画に出演しました。毎日新聞社は、3回忌の2016年から約2年全国10か所で追悼特別展「高倉健」を開催しました。その縁からひとシネマでは高倉健を次世代に語り継ぐ企画を随時掲載します。
Ken Takakura for the future generations.
神格化された高倉健より、健さんと慕われたあの姿を次世代に伝えられればと思っています。
2024.11.22
Z世代が推す高倉健「ホタル」健さんの魅力は底なし沼のように果てしない
健さんの新たな一面
高倉健は私の推しだ、と言い続けること2年半。健さんファンの中ではまだまだ新参者の私だが、こうして高倉健について記事を書かせていただくのもこれで3回目になる。11月10日に没後10周年を迎えた健さんの魅力は、底なし沼のように果てしない。2年半推し活していても、まだ知らなかった健さんの新たな一面に沼った映画「ホタル」。
お互いを支え合い長年連れ添う夫婦
鹿児島の小さな港町で暮らす元特攻隊員の山岡と妻の知子。肝臓を患い人工透析を必要とする知子を支えるため、カンパチの養殖業を始めて2人は静かに暮らしていた。そんなある日、山岡の戦友・藤枝が自殺した知らせを受ける。特攻隊の生き残り仲間を失った山岡は、知子を連れてある旅に出ることを決める。静かに淡々と流れる物語の中で、戦争・国交・夫婦愛と壮大なテーマに触れる作品。主人公の山岡を高倉健、妻の知子を田中裕子が演じ、戦争の傷を抱えながらもお互いを支え合い長年連れ添う夫婦の姿を見せた。
一番柔らかい高倉健
私にとって俳優・高倉健が演じる役は「寡黙」「不器用」「一匹おおかみ」といった印象があった。他人(特に愛する女)に対して「甘々」というより、「ツンデレ」といったような感じ。しかし、今作「ホタル」で見せた彼の姿は、今まで私がみた高倉健史上「一番柔らかい高倉健」だった。
これがギャップ萌(も)えというやつか。ツンケンした役柄の健さんに慣れていたところに、愛妻家で甘々の健さんが突如襲来してくるのだ。私が健さん沼の深淵に突き落とされるのもそう時間はかからなかった。病を患う妻を献身的に支え、時に冗談を言い、時に甘える。「こんな健さん初めて見た!」と、2年半推し活していても彼の知らなかった一面にほれてしまうのだ。さすが、出演映画数205本に及ぶ男。作中、山岡が妻と共に北海道を訪れた際、雪の中にたたずむ鶴のまねをするシーンがある。そのモノマネの振り切り方がすごいのなんの。「奇声を上げながら鳥の真似をする高倉健と田中裕子」という絵面が面白すぎて5回は巻き戻して見た。実はひょうきんだという健さんの素顔が垣間見えた瞬間で、そんな時、私はこの大御所俳優がどうしてもいとおしく感じてしまうのだ。
生き残った人々が抱える傷
「ホタル」の高倉健が沼だというのもさることながら、私が今まで見てきた彼の出演作の中でも「ホタル」は一番好きな作品となった。多くの戦争映画は「戦争で何が行われていたか」、戦時中に起こった被害のリアルが描かれる。しかしこの作品は、終戦から何十年もたった世界で生き残った人々が抱える傷にこれでもかというほど向き合っている。実際の戦争の様子は描かれていなくても、彼らの心に残り続ける記憶が、より戦争の残酷さを浮き彫りにしていく。「終戦した。はい、解決、」となるわけがない。大切な人を失った喪失感、山岡や藤枝のように特攻隊なのに生き残ってしまった罪悪感。一回の戦争がその先何十年も傷痕を残し続けることを改めて実感させられた。
最終的な終着点こそが高倉健
毎度のことだが、Z世代ライターとして高倉健と彼の出演作の魅力をなんとか同年代にも知ってほしいと言ってみる。が、私も毎年毎年、彼の知らなかった一面に魅了され、これは大人になるからこそ分かってくるものでもあるのかもしれない、なんて思ったりもする。若いうちはいろんな経験をして、最終的な終着点こそが高倉健なのでは……?!(と、23歳が言っている)私が未だ見ぬ健さん出演作は100本以上。私の成長と共に、この先の人生もまだまだ健さんと歩んでもらう次第である。どうか!彼の出演作がサブスクから一生消えませんように! 高倉健、永遠なれ!!
▼東映㈱ 旧作上映「没後10年 高倉 健 特集 銀幕での再会」@丸の内TOEI
https://toeitheaters.com/theaters/marunouchi/news/59/
▼東映ビデオ㈱ 初ソフト化3作品
https://www.toei-video.co.jp/special/takakuraken10th/