第77回毎日映画コンクール・男優主演賞を受賞した沢田研二=瀧川寛撮影

第77回毎日映画コンクール・男優主演賞を受賞した沢田研二=瀧川寛撮影

2023.1.28

男優主演賞 沢田研二 「この年になっても伸びしろがあるというべきか……」:第77回毎日映画コンクール

毎日映画コンクールは、1年間の優れた映画、活躍した映画人を広く顕彰する映画賞。終戦間もなく始まり、映画界を応援し続けている。第77回の受賞作・者が決まった。

勝田友巳

勝田友巳

おかえりなさい! 個性的俳優が魅力を増して、スクリーンに戻ってきた。公開は2021年の「キネマの神様」が先だったが、それ以前から「土を喰らう十二ヵ月」の撮影は始まっていた。信州で1年間の季節の移り変わりを追いかけて撮った、実質的な〝復帰作〟で、毎日映コン初受賞となった。
 
 


 
1960年代、ザ・タイガース時代のアイドル映画に始まり、ソロになってヒット曲を連発していた70年代以降も「太陽を盗んだ男」「ときめきに死す」「カポネ大いに泣く」など多彩な作品に出演して、演技への評価も高かった。歌手としてステージで派手なパフォーマンスを見せる一方で、映画ではごく普通の男も淡々と演じる。演技の魅力を語っていた時期もあったが、06年「幸福のスイッチ」を最後に俳優業から遠ざかる。
 

年輪刻み、表現に味わい

「土を喰らう十二ヵ月」は15年ぶりの出演作品。老境に差し掛かった作家の生活を味わい深く演じている。体形は変わりしわも刻まれ、古希を超えた男の年輪と色気がにじみ出た。
 
水上勉のエッセーを元に中江裕司監督が映画化した。沢田が演じた作家ツトムは、山間の家に1人で暮らす。幼い頃禅寺で修行して心得があり、山野から手に入れた素材で精進料理を自ら調理する。年下の編集者の恋人がいるが、心臓発作で倒れてから死を意識するようになる。映画は質素で簡素な生活描写に、ツトムの独白を重ねてゆく。
 
選考では、若かりしころ「太陽を盗んだ男」「ときめきに死す」などで「死」を演じた沢田が、年齢を重ねて「生」を慈しむ役を味わい深く演じたと指摘。季節と共にある日常の中で自然と共生し、料理する姿にも生き方が宿っている、年齢を重ねたからこそ到達した境地だ、と強く推す声に賛同が集まった。
 

「土を喰らう十二カ月」© 2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会

はにかみながら「ありがとうございます」

喜びの声を、と取材を申し込んだが、映画への出演が途切れたあたりから、メディアへの露出を控えている。写真撮影の合間に授賞理由を伝えると「ありがとうございます」とはにかみながら一言。後日、ビデオでメッセージを送ってくれた。
 
受賞に「驚きました。こういう賞には縁がないと思っておりましたので、この年になっていただくと、まだがんばらないといけないなと思いました。やっぱりうれしいものです」。
 

原作者・水上勉と2度遭遇「縁を感じる」

水上勉とは、2度遭遇したという。「80年代に京都のカウンターだけのお店で、一つ席を隔てて座ったことがありまして。先生は女性の方にしか興味がなかったようで、というような思い出が」。出演依頼の際には「縁があったのかなと思いました」。
 
ツトム役については「何とかできそうな気がする」と臨んだものの、完成した作品を見て「ちゃんとできているはずだったんですが、自分としてはそうでもなく、もっとできるはずだと思った」と、辛めの採点。しかし「まあ、そう思えるだけ、この年になってもまだ伸びしろがあると解釈するべきなのか」とも。
 
「功労賞的な意味合いもあるのかなと思う一方で、すごい俳優さんがいる中から私を選んでいただいたのは、ほんとにうれしいし、恐れ多い。そして、たいへんありがたく思っております」
 
メッセージは、作品に関わった人々への感謝の言葉で結ばれていた。「この役に抜てきしていただいた、作品の関係者の皆さん、スタッフのみなさんに、心よりお礼を申し上げます。ほんとにありがとうございました」

俳優部門 選考経過と講評
第77回毎日映画コンクール授賞結果
女優主演賞 岸井ゆきのインタビュー「役が自分の中に生まれた」 「ケイコ 目を澄ませて」
男優助演賞 窪田正孝インタビュー 「階段を上らせてくれた」 「ある男」
女優助演賞 伊東蒼インタビュー 「逆立ちしたら表現の幅が広がった」 「さがす」

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

この記事の写真を見る

  • 第77回毎日映画コンクール・男優主演賞を受賞した沢田研二=瀧川寛撮影
さらに写真を見る(合計1枚)