フォトコールに応える「PLAN 75」の(左から)ステファニー・アリアンヌ、早川千絵監督、磯村勇斗=ロイター

フォトコールに応える「PLAN 75」の(左から)ステファニー・アリアンヌ、早川千絵監督、磯村勇斗=ロイター

2022.5.26

第75回カンヌ国際映画祭現地報告②:「PLAN 75」高評価 河瀬直美監督以来のカメラドールか

ひとしねま

立田敦子

第75回カンヌ国際映画祭も残りわずか。賞レースのゆくえはいかに。現地で取材する映画ジャーナリスト、立田敦子さんの予想は……。


世界中から詰めかけたカメラマンのカメラの放列。お祭り気分を盛り上げる=ロイター

いよいよ映画祭も終盤に差し掛かってきた。コロナ禍の日本から来た身としてはちょっと違和感を覚えるくらいにお祭り気分は全開で、街には観光客があふれ、夜はホテルやビーチでのパーティーも盛んに開催されている。

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脱コロナ象徴 華やかな記念式典

顰蹙(ひんしゅく)を買わないように(?)遠慮がちだった去年がうそのようだ。5月のカンヌは基本的にはからっとしたさわやかな初夏の陽気なのだが、今年は、日本の真夏並みに気温が高く湿気がある。浜辺にも人が多く、海沿いのクロワゼット通りを取材とスクリーニングのために行き来していると、カンヌがリゾート地だったことを思い出させる。
 
75周年の節目の年ということで、24日の夜にはガラセレモニーがメイン劇場のリュミエールで行われた。
 

Cinema will never die

デビッド・クローネンバーグ、ジャック・オディアール、パオロ・ソレンティーノ、マギー・ギレンホールとピーター・サスガード夫妻、クリステン・スチュワート、ビゴ・モーテンセン、マッツ・ミケルセン、イザベル・ユペールなど約120人の俳優、監督がレッドカーペットを歩き登壇。
 
カンヌ国際映画祭総代表のティエリー・フレモーはプレジデントのピエール・レスキューとともにゲストを壇上に迎え、あいさつの中で「映画は死なない(Cinema will never die)」とコロナ禍からの完全復活を宣言し、喝采を浴びた。アカデミー賞監督でもあるギレルモ・デル・トロと俳優のガエル・ガルシア・ベルナルのメキシコ出身コンビは、メキシコ出身のホセ・アルフレド・ヒメネスの「Ella(エラ)」をデュエットしイベントを盛り上げた。


レッドカーペットに登場した、(左から)タン・ウェイ、パク・チャヌク、パク・へイル=ロイター 

賞レースはパク・チャヌク監督リードか

この原稿を書いている時点で残り4日、コンペ作品も21本中15本を見た。現地では業界誌がデーリーで発行されるが、スクリーン誌の星取りでは、韓国のパク・チャヌク監督の「DECISION TO LEAVE」が4点満点中3.2点で最も高い。男の変死体が発見され、その容疑者である被害者の妻と事件を担当する刑事をめぐる異色ラブストーリーだ。
 
容疑者をアン・リー監督の「ラスト、コーション」(2007年)に主演した中国のタン・ウェイ、刑事役をソン・ガンホ主演「王の願い ハングルの始まり」(19年)のパク・ヘイルが演じている。パク・チャヌク監督は、04年に「オールド・ボーイ」で審査員グランプリ、09年には「渇き」で審査員賞を受賞している。コンペには16年の「お嬢さん」以来の登場となる。
 
フランス系のル・フィルム・フランセーズ誌は点数制ではないが、一番評価が高いのはアメリカのジェームズ・グレイ監督による「ARMAGEDDON TIME」。1980年代のニューヨーク・クイーンズを舞台に家族の絆を少年の視点から描く。


コンペティション作品の、リューベン・オストルンド監督「TRIANGLE OF SADNESS」 =カンヌ国際映画祭提供

推しはリューベン・オストルンド監督とサイード・ルスタイ監督

グレイ監督の自伝的要素の強い青春物語で、祖父役をアンソニー・ホプキンス、母親役をアン・ハサウェイが演じている。大物監督たちが自分の幼少期をテーマに描いた作品としては最近ではアルフォンソ・キュアロン監督の「ローマ」(18年)やケネス・ブラナー監督の「ベルファスト」(21年)などがあるが、どちらも高く評価されている。本作も賞レースに絡むことは間違いないだろう。
 
個人的には、「ザ・スクエア 思いやりの聖域」(17年)でパルム・ドールを獲得したスウェーデンのリューベン・オストルンド監督の「TRIANGLE OF SADNESS」やイランのサイード・ルスタイ監督の「LEILA’S BROTHERS」が面白かった。
 
前者は高級客船に乗船した客たちが、海賊に襲われ遭難したことをきっかけにヒエラルキーが崩壊していく様を描いた風刺コメディー。後者は働きながら家族の生活を支えているアラフォーのレイラと、ほとんど仕事もしていない兄たちと両親をめぐる家族のドラマだ。


サイード・ルスタイ監督「LEILA’S BROTHERS」=カンヌ国際映画祭提供 

平均値高い豊作の年

前述のスクリーン誌の星取りで、1点台の作品は1本もない。17年には6本、21年には9本あったことを考えれば、今年は平均値が高い良作の年といえるだろう。
 
日本関連の作品としては、「ある視点」部門の早川千絵監督の「PLAN 75」の評判がいい。〝75歳以上の人は安楽死を選ぶことができる制度〟が施行されたという設定のストーリーだが、高齢化社会における命の価値を問うテーマは、世界的にも注目を浴びている。

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コンペに選出されている是枝裕和監督が韓国で製作した「ベイビー・ブローカー」は26日の夜(日本時間27日未明)にワールドプレミアされる予定だ。

ライター
ひとしねま

立田敦子

たつた・あつこ 映画ジャーナリスト、評論家。批評の執筆やインタビュー、トークイベント出演の一方、カンヌ、ベネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。エンターテインメントのエキスパートとして、イベント企画、TVや企業のアドバイザーとしても活動する。著書に「どっちのスター・ウォーズ」「おしゃれも人生も映画から」(共に中央公論新社)他。エンターテインメントメディア「Fan's Voice」主宰。