「土を喰らう十二ヵ月」© 2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会

「土を喰らう十二ヵ月」© 2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会

2022.11.11

「土を喰らう十二ヵ月」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

作家のツトム(沢田研二)は、長野県の人里離れた山荘で一人暮らし。畑や山で採れた旬の野菜や木の実、キノコを料理して四季を味わっている。時折、担当編集者で恋人の真知子(松たか子)が東京から訪ねてきて一緒に食べる特別な時間を楽しみにしている。一方で、13年前に亡くなった妻の遺骨を墓に納めることができずにいた。

水上勉の料理エッセー「土を喰う日々 わが精進十二ヵ月」を原案に、料理研究家の土井善晴が登場する料理を手がけた。質素だが自然が育んだもの、素材の良さが伝わってくる食事に食欲をそそられる人も多いはずだ。土地や風土に根ざした素朴な生き方に、羨望(せんぼう)のまなざしを向ける人もいるだろう。食や料理から、次第に死生観を漂わせ、人の命へと視界を広げていく。沢田が自然の中で生きる初老の男を、ユーモアを醸し出しつつ淡々と演じて違和感がない。立冬や処暑など二十四節気で1年をつづる構成も親しみやすい。中江裕司監督。1時間51分。東京・シネスイッチ銀座、大阪ステーションシティシネマほか。(鈴)

ここに注目

ツトムが食材を扱う手つきは、器用ではないけれど丁寧でゆったりしていて、そこはかとなく色気がある。さすが沢田研二。さらに、料理のシーンに深くかかわったという土井善晴的なあたたかみやかわいらしさも備わっている。真知子のような女性が好きになるのも無理はない。(久)

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