「ザ・ビースト」© Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E, Le pacte S.A.S.

「ザ・ビースト」© Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E, Le pacte S.A.S.

2022.11.11

特選掘り出し!:「ザ・ビースト」 ひっくり返る善悪の図式

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

東京国際映画祭で東京グランプリはじめ、最優秀監督賞、同男優賞と3冠を制した。日本公開は未定だが、一見の価値あり。どこかで上映されたら、ぜひ注目を。

フランス人の元教師アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)は、妻のオルガ(マリーナ・フォイス)とスペインに移住して農業を営んでいる。隣家のシャンとその弟がアントワーヌを敵視し、執拗(しつよう)に嫌がらせを繰り返す。閉鎖的な共同体で先鋭化しあらわになる、人間の悪意や攻撃性を描く心理スリラー。と言えば、やがてアントワーヌと兄弟の激突に至ると容易に予想できるだろう。しかしロドリゴ・ソロゴイェン監督は巧みな仕掛けを施して、見慣れたジャンル映画に新鮮さを加えている。

見どころは2回ある、長回しの1カット。その一つが、シャンとアントワーヌの長い対話。2人の議論のうちに、衰退する農村で重労働に明け暮れる生活者の真情、自然を理想化する〝よそ者〟の身勝手さがあらわになって、挑発する悪者と耐える善人という図式がひっくり返る。

さらに終盤、主役はオルガに代わり映画は大きく転調する。社会問題も視野に入れた、濃密な心理劇である。2時間18分。(勝)

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