チャートの裏側

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2025.3.21

チャートの裏側:アカデミー賞の効果

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

興行における米アカデミー賞効果が下がっている。作品賞、主演女優賞など5冠の「ANORA アノーラ」は受賞後には伸びたが、効果は限定的だ。ストリップダンサーの話で、観客の年齢制限もある。中身以前に設定自体が観客を選ぶ。効果の範囲が、そこを突き崩すのは難しい。

昨年の主演女優賞受賞作「哀れなるものたち」を思い出した。性的な描写が随所にあり、こちらも年齢制限がある。最終的な興行収入は5億2000万円。観客を選ぶ作品であるのは同じだが、受賞がなければ、ここまで伸びない。「アノーラ」の上限の数字ということになろう。

一方、長編アニメーション賞受賞作の「Flow」の興行には、ちょっと驚いた。何と「アノーラ」のスタート成績を超えたのである。チャートには入らないが、明らかに賞の効果がある。大洪水の中、動物たちが船でさまよう様を、スペクタクルと微細な「感情」的表現で描く。

本作の真骨頂は、ハリウッド映画によくある安易な動物の擬人化を避けたことだろう。100%ではない。物語を動かしていく必要もあるからだ。動物たちの細やかな動きを最大限に生かしつつ、「感情」的な揺れ具合も映しこむ。これが見る者の心に刺さる。ラトビア映画だという。世界は広い。アカデミー賞効果は小さくはなったが、否定的に捉えることもない。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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