チャートの裏側

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2024.8.09

チャートの裏側:「抽象的な一側面」ネック?

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

映画やジャズなどの評論で名を成した評論家、平岡正明氏の「ジャズ宣言」という書物に、こんな言葉がある。「感情を持つことは、つねに、絶対的に、ただしい」。「インサイド・ヘッド2」を見て、この言葉がよみがえった。本作が、このニュアンスに近い形で進むからである。

前作で幼い少女だったライリーが思春期を迎える。「ヨロコビ」「カナシミ」といった感情が、ライリーの日常と並行してビジュアル化された前作。今回は、思春期ゆえに感情の数も増える。なかで、存在感を示すのが「シンパイ」だ。「シンパイ」が思春期の象徴になる。

何種類もの感情のつばぜり合いが、アニメーションならではのファンタジー、異世界として描かれる。この独創的な発想、鮮やかな具現化が、前作に続き素晴らしい。若い女性連れ、カップルが目立った。思春期に近い人ほど、映画への共感度が、より強く生まれるのだろう。

とはいえ、「僕のヒーローアカデミア」の新作に及ばないスタートは、いささか物足りない。すでに全世界累計の興行収入はアニメの歴代最高だ。単純に言えば、国内でも100億円は期待したいところだが、スタート時点ではそうはいかない。「感情を持つことはただしい」意味は胸に響くが、「感情」を描くことの抽象的な一側面が、国内では少しネックになったか。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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