シネマの休日

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2024.7.19

チャートの裏側:物語の展開の素晴らしさ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

邦画娯楽大作の金字塔が生まれた。興行面でも、内容にふさわしい圧倒的な強さを見せたのがうれしい。「キングダム 大将軍の帰還」だ。4日間では興行収入22億円。邦画実写作品の歴代最高スタートである。紀元前の中国を舞台に、秦の国が他国とわたり合う様を描く。

本作の素晴らしさは、何と言っても話の展開のダイナミズムにある。前作で一段と存在感を増した大将軍・王騎(大沢たかお)を中心に、封印されていたかつての王の逸話、王騎の宿敵の登場、王騎を脅かす新たな強敵の出現。何層にも膨れ上がる話の畳み込みが圧巻であった。

このシリーズの本筋は、大将軍を夢見る主人公・信(山崎賢人)と、中華統一を目指す若き王(吉沢亮)の成長譚(たん)とも言える歩みだ。それが次第に、戦いの実践に卓越した力を発揮するカリスマ・王騎の存在感が増していく。彼を取り巻く多彩な人物像の厚みが今回、最高度の熱量で描出されるのだ。

なぜ、このシリーズは面白いのか。それは人が求めてやまない「物語」の祖型的なありようを、とことん追求しているからだろう。「物語」の祖型とは、娯楽映画の原点だと思う。存分に盛り込まれるスペクタクルシーンも含め、原作人気の上に立ち、それらが幅広い層の熱い支持につながっているのだろう。次があるのか。あってほしい。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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