チャートの裏側

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2024.9.20

チャートの裏側:時代劇の継承目指し

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

米配信ドラマ「SHOGUN 将軍」が、米エミー賞で多数受賞した。戦国武将を描いた歴史時代劇だ。主演男優賞にも輝いた真田広之が、作品賞受賞の際、日本の時代劇関係者へ感謝の言葉を述べた。国内の厳しい時代劇の現状を顧みれば、言葉の重みが存分に感じられてくる。

その快挙とほぼ同時期、ある時代劇映画が一気に上映館数を増やした。タイトルは「侍タイムスリッパー」という。大手作品ではない自主映画だ。8月17日に東京都内の1館で公開。口コミで評判が広がり、9月13日から62館に拡大された。チャート内に、あと一歩に迫った。

週末、東京都内のシネコンに見に出かけて驚いた。朝方の回なのに満席に近かった。最後に拍手が起きた。拍手には、「よくぞ、やった」という響きが感じられた。問答無用に面白いのである。京都の撮影所にタイムスリップした幕末の会津藩士が、時代劇の一翼を担う。

武士と周囲のやりとりが笑いをもたらし、武士のいちずな気持ちに泣かされる。笑いと涙の緩急の引き出し方が絶妙なのである。自主映画というより、第一級の堂々たる娯楽時代劇の風格をもつ。時代劇の衰退ぶりも描かれる。本作が目指したのが時代劇の継承だ。大作「将軍」の志とつながるが、こちらは手作り感満載。触発されるのは、時代劇関係者だけではない。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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