シネマの週末

シネマの週末

2024.7.12

チャートの裏側:邦画アニメの新段階

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

聞きなれないタイトルの作品がトップに立った。「ルックバック」だ。全く、予備知識のないまま見て驚いた。心を揺さぶられた。職業柄、映画を見る場合は、最小限の情報にしか接しないようにしている。これが、なかなか難しい。今回は比較的うまくいった。非常に珍しい。

邦画アニメーションである。マンガにいそしむ女の子2人の小学校時代から話が始まる。独特な出会い方を経て、2人はマンガで共作の道を歩む。プロとして進み出すが、1人が別の方向性を目指す。ある事件が起こる。現実と幻想が入り交じる以降の展開が本作の見せ場だ。

シンプル・イズ・ベストという言葉がある。真実のある一端を語る。本作は、この言葉が似合う。シンプルとは正反対な昨今のカオスのような現実世界のなかで、忘れてはならないものは何か。自分と素朴に、愚直に向き合うことだ。シンプルさに立ち戻る。現実と幻想のはざまから、その姿が浮かび上がる。

興味深い試みも展開されている。入場料金が1700円均一なのだ。割引が一切ない。上映時間が58分と短いこともあるだろう。一般的に割引で見る人は多いとはいえ、見る見ないは当たり前だが、観客の側に委ねられる。興行収入は15億円超えも狙える。1700円の設定は成功した。邦画アニメは内容、興行ともにさらに新たな段階に入っている。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

関連記事

この記事の写真を見る

  • シネマの週末
さらに写真を見る(合計1枚)