毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.6.21
チャートの裏側:内面の深掘り欲しかった
難病を題材にした作品の場合、病を患った人を中心に話が展開することが多い。「ディア・ファミリー」は趣が違う。重い心臓病をかかえた娘の父親の話だ。父親は医療関係者ではないのに、人工心臓を作ろうと決意する。娘を思う強い気持ちが、尋常ならざる行動力を生む。
町工場の経営者である彼は、自身の熟練の技術が人工心臓の開発に結びつくことを深く考えていたとは思えない。結果的に、娘の病を治したい、いちずな気持ちが、自身も予期しない途方もない力を引き出す。それは人間の可能性という言葉では表せない。未知的な何かである。
惜しいところもあった。未知的な何かが、未知的なままだったことだ。もちろん、人間の底知れぬ力を描くわけだから、父親の行動に妙な理屈を与える必要はない。とはいえ、父親の内面をもっと深掘りしてほしかった。それだと幾多の逡巡(しゅんじゅん)が生まれ、父親と周囲のより生々しい姿が見えてきたと思う。
話の展開が、テレビ番組の「プロジェクトX」のような気もした。不屈の精神で、とてつもないことを成し遂げる。それを目指したのなら申し分ないのだが、映画となると、どうだったか。スタート3日間の興行収入は2億6000万円。もっと伸びていい。若い層の支持が厚い一般的な難病映画とは異なる点が影響したか。こちらは少し惜しい。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)