毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.10.25
「八犬伝」 盛りだくさんの娯楽時代劇
原作は山田風太郎の同名小説。晩年に失明の苦難に見舞われながらも、28年の歳月を費やして「南総里見八犬伝」を完成させた滝沢馬琴(役所広司)の情熱を、親友の葛飾北斎(内野聖陽)との交流を軸に描く。さらに、八つの珠(たま)を持つ8人の剣士が宿命に導かれて悪に立ち向かうおなじみの物語を、視覚効果とアクション満載で映像化。〝実〟と〝虚〟のパートが交互に展開していく2部構成である。
やはり本作の新味は〝実〟のパートにある。馬琴の壮大かつ奇抜な想像力に舌を巻く北斎、そんな北斎がさらりと描いてみせる挿絵の下描きに刺激を受ける馬琴。憎まれ口をたたきつつも、互いに敬意を抱く2人の友情を、役所と内野ががっぷり四つの芝居で体現した。「東海道四谷怪談」の作者、鶴屋南北(立川談春)と馬琴が、劇場の奈落の暗闇で創作をめぐる議論を戦わせる場面も面白い。2部構成ゆえのブツ切り感は否めないが、土屋太鳳、寺島しのぶ、磯村勇斗、黒木華、河合優実らのキャストも豪華で、盛りだくさんの娯楽時代劇である。曽利文彦監督。2時間29分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(諭)
異論あり
冷水とお湯を交互に飲んだようで何とも落ち着かない。特殊効果を駆使したイケメン剣士らのスケール感たっぷりの活劇と、役所や内野、寺島、黒木ら芸達者たちの深い味わいの演技合戦。交互に見せながら混乱はなく、2本分を堪能した感じはあるが、どちらも少しもったいないかも。(鈴)