「彼方のうた」  ©︎2023 Nekojarashi Inc.

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2024.1.05

特選掘り出し!:「彼方のうた」 謎めいて魅惑的な映像世界

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

映画というのは物語やテーマを過度に説明したり、登場人物の感情を強調したりしすぎると、たちまち陳腐になる。それとは正反対のミニマリズムを貫き、観客の想像力と好奇心をかき立ててやまない非凡な映画作家が杉田協士だ。国内外で好評を博した「春原さんのうた」に続く長編4作目の本作も、実に謎めいた魅惑的な映画である。

主人公の書店員、春(小川あん)は、道を尋ねるふりをして寂しげな雪子(中村優子)に接触したり、中年男の剛(眞島秀和)を尾行したりしている。どうやら春と2人の間には小さな因縁があるらしい。やがて2人と交流を重ねるうちに、春の心境に変化が生じる。

今そこにある人生の断片を切り取ったような映像世界は、登場人物の背景や因果関係さえ不明。しかし表向きは朗らかに日々を生きる春の不安や悲しみが表出する不穏な瞬間があり、川のせせらぎの音が記録された古いカセットテープが映画に時空の広がりをもたらす。この若い女性の心には何が渦巻き、何が沈殿しているのか。

やがて大切な人の不在、喪失、記憶といった主題が幻のように揺らめくこの映画のはかなさ、映像と音の純度の高さに胸を打たれる。1時間24分。東京・ポレポレ東中野、大阪・シネ・ヌーヴォ(20日から)ほか。(諭)

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