特選掘り出し!:「彼方のうた」 謎めいて魅惑的な映像世界
映画というのは物語やテーマを過度に説明したり、登場人物の感情を強調したりしすぎると、たちまち陳腐になる。それとは正反対のミニマリズムを貫き、観客の想像力と好奇心をかき立ててやまない非凡な映画作家が杉田協士だ。国内外で好評を博した「春原さんのうた」に続く長編4作目の本作も、実に謎めいた魅惑的な映画である。 主人公の書店員、春(小川あん)は、道を尋ねるふりをして寂しげな雪子(中村優子)に接触したり、中年男の剛(眞島秀和)を尾行したりしている。どうやら春と2人の間には小さな因縁があるらしい。やがて2人と交流を重ねるうちに、春の心境に変化が生じる。 今そこにある人生の断片を切り取ったような映像世界...