「ミッシング」 ©2024「missing」Film Partners

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2024.5.24

時代の目:「ミッシング」 極限状態の母の心理、迫真

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ある日突然、最愛の娘が行方不明に。「空白」の吉田恵輔監督が、そんな現実の事件を想起させる事態に陥った母親の姿を見すえたサスペンスフルな人間ドラマだ。

娘の失踪から3カ月後。母親の沙織里(石原さとみ)は、夫の豊(青木崇高)とともにビラまきなどの懸命の捜索を行っているが、世間の関心はすでに薄れかけている。そんなとき事件発生時の沙織里の行動が明らかになり、ネット上で猛批判を浴びてしまう。

匿名の利用者がSNSに書き込む主人公への誹謗(ひぼう)中傷の数々。沙織里の心のよりどころは取材を続けるテレビ局記者の砂田(中村倫也)だけだが、メディアは事件を視聴率稼ぎのネタとして扱おうとする。〝失踪〟を意味する題名の「ミッシング」には、氾濫する情報に溺れ、大切なものを失った現代人と社会への鋭い寓意(ぐうい)がにじむ。

さらに吉田監督は単なる風刺劇にとどめず、耐えがたい苦しみにとらわれた人間の描写にもただならぬ迫真性をこめた。吉田作品への出演を直談判した石原が、主人公の狂気すれすれのいら立ちや混乱を体現。出口なき闇の中で希望のありかを模索する終盤まで、緊迫感が途切れない一作に仕上がった。1時間59分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・あべのアポロシネマほかで公開中。(諭)

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