毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2025.1.31
私と映画館:フィルムの時代
映画は幾つかの技術革新をくぐり洗練されてきたが、その中に映写のデジタル化もある。ルーカス監督の「スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃」(2002年)で始まったデジタル化は、スピルバーグ監督やスコセッシ監督も巻き込んで世界的な流れとなった。それまでは2台の映写機を並べ、フィルムを掛け替えながら映写していたが、時をおかず、映写機はデジタル・シネマ・プロジェクターに置き換えられた。
フィルム時代の映画館には、スクリーンに正対した壁に2、3個の小さなガラス窓があった。その中が映写室で、国家資格だった映写技師の仕事場だ。強力な映写用電球ができるまでは、左右から突き出したアーク棒の間に電気を通して光源にした。映写技師は棒の燃え具合をコントロールし、明るく安定した光源を作るのに腕を競った。
往年、地方ロケの合間に映写技師や見習の若者と話すと、みんな映画大好き人間で、映画の話を始めると際限ない。興に乗ると、自分で映写用フィルムから切り出したお気に入りの俳優の1コマを見せてくれた。
フィルムは何巻かに分けて届けられ、映写室にある編集機材で上映に合わせてつないでいた。プリントから切り取るのは簡単で、1コマぐらい無くなっても気づかれることはない。フィルムが無い今日では、昔々の物語になってしまった。(映画技術史研究家・渡辺浩)