© 2023 MASTER MIND Ltd.

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2024.1.15

フィンランド、フランス、ブラジルの朗読詩の世界大会に参加した詩人の「PERFECT DAYS」鑑賞記。

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

道山れいん

道山れいん

見おわったあと、
心にこもれびの影がゆれている…
 
 すぐれた映画は直接語らない。
複雑さ、不可思議さを残し終わる。
それこそが人生の本質に迫る唯一の近道だとわかっている。
結果、人生という言葉を一切つかわずに人生を語っている。
 
 ***
 
マルチタスクから遠く離れた
麗しきルーティン。
 
朝おきてからの一連のルーティンには、
かなり共感があった。
以下はぼくのルーティン。
 
 
5:30におきる
散歩
木に触れる(ここは別の登場人物に似ている)
朗読詩の暗唱
そうじ
メダカにエサ
水やり
メディテーション
夜があけてくる
風呂(熱め)
水シャワー
写真撮る
みそ汁づくり
糠(ぬか)漬け取り出し&仕込み
ごはん
歯磨き
コーヒー淹(い)れる
お茶淹れる
空を見る
短い詩を書く
日記
ギター練習
音楽をかけて
それから仕事
 
 具体はちがえど、なんだか似ている。
みなさんもきっとそうだろう。
意識されてないかもしれないが。
 
ルーティンとは、
〝発見するための地ならし〟であると気づかされた。
発見を喜ぶ日々とはまぎれもない詩的生活である。
そう、主人公は最高の詩的生活 = PERFECT DAYS を送っている、
とぼくは解釈する。
 
この世界でそれを手に入れるためには、覚悟がいる。
だが、
それでも、手に入れられるのだ。
 
制約があるようで自由だ。
夜あけの首都高をかっとばす、
まるで銀河鉄道。
 
補充スタッフは頼もしいし、
宮司さんは苗木をくれる。
そして誰もがうらやむ「おつかれさん!」。
 
 
でも主人公は、
充(み)ち足りた日々に身を委ねているわけではない。
 
切り取り、のこしてきた結果なのだ。
自分の信じる、
カタチあるメディアとともに。
 
彼はカセットで音楽を聞く。
何十年も聞きつづける。
かえようとしない。
 
彼は旧式カメラで切り取る。
プリントして、気に入ったもの以外は容赦なく破り捨てる。
激しいのだ。
 
妹のような運転手つきの生活も、
彼は「捨てる」勇気を持つことで、「選んで」いる。
自分にとっての、きらめきを。
 
***
 
好きだったシーンがたくさんある
 
 
繊細な水やり(霧吹き)
 
部屋の中の音
 
蛇口をひねる音
 
トビラをひらく音…
 
日常のなかのひとつひとつがいとおしくなる
 
 
 
家を出るとき空を見て笑うこと
 
鳥居でのお辞儀
 
特別に盛られたポテトサラダ
 
「おじさん」という言葉のマジック
 
妹を抱きしめる兄
 
影ふみ…
 
 
すべてがハッピーではない
 
眠るときに心に映る
 
おだやかでない影
 
不安の音
 
みんななにかをかかえて生きている
 
 
***
 
 
〝 今は今
こんどはこんど〟
 
この考え方は、ポエトリー・スラム(詩の朗読の対戦)にも通じる。
朗読しているときにはいろんなことが起こる。
雑音、お客さんの動き、いいまちがい…
だからといって流れを止めることはできない。
〝 今は今〟で、持ち時間の3分をやりきる。
後悔や反省はまた〝こんど〟。
 
先送りではない。
自分と他者の関係性において、
たぶん最善の選択なのだ。
 
どうしようもない「流れ」は存在する。
大河のように、とうとうと海に向かってゆく。
予期せぬことも、あたりまえのように起こる。
 
逆らって泳ぐのもいいけど、
人生の時間はかぎられている。
流れに身を委ねつつ、一瞬一瞬判断して自分らしく泳ぎきればいい。
「時間」という名の川は、方向をかえることはない。
 
 
***
 
 
東京という街
 
人間というもの
 
この世界
 
どれもわるくないなと思える
意外といいじゃん
もし欠けてるものがあるとすれば…
 
 
および腰になって
さめた目をして
しょうがないよねと
ハタでながめてる
自分かもしれないね
 
 
そのピースがはまれば世界は…

 

 

…この映画はきっと「問い」。
 
答えの言葉を胸に持ちつつ、
もう一度見てみることが、
こちらからの「問い」。
 
主人公のように無口な映画だけど、きっとなにか返してくれるだろう。
問いと答えが重なりあったときに、
その意味はこもれびの影のように深さをます気がする。

ライター
道山れいん

道山れいん

みちやま・れいん 詩人 、スラムマスター。
ポエトリースラムの全国大会「Kotoba Slam Japan 2022(全国16地区・158名エントリー)」チャンピオン。2019年フィンランド・ラハティ詩祭映像詩部門日本人初優秀賞 / 2023年パリ・ポエトリースラムW杯世界大会日本代表・フランス全国俳句スラム準優勝 / 2023年リオデジャネイロ・World Poetry Slam Championship世界大会準決勝進出。詩集「水あそび」(2016)「水の記憶」(2017)「しあわせでいいじゃない」(2021)。

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