「聖地には蜘蛛が巣を張る」©Profile Pictures  One Two Films

「聖地には蜘蛛が巣を張る」©Profile Pictures One Two Films

2023.12.26

良作ぞろいの欧州アートハウス系 高橋諭治

2023年も、たくさんの映画や配信作品が公開されました。とても見切れなかった!とうれしい悲鳴も聞こえてきそうです。「ひとシネマ」執筆陣が今年の10本と、来る24年の期待作3本を選びました。年末年始の鑑賞ガイドとしてもご利用ください。

高橋諭治

高橋諭治

ゆく年編


「聖地には蜘蛛が巣を張る」(アリ・アッバシ監督)
「ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう」(アレクサンドレ・コベリゼ監督)
「コンパートメントNo.6」(ユホ・クオスマネン監督)
「あしたの少女」(チョン・ジュリ監督)
「TALK TO ME トーク・トゥ・ミー」(ダニー&マイケル・フィリッポウ監督)
「私、オルガ・ヘプナロヴァー」(トマーシュ・バインレプ、ペトロ・カズダ監督)
「アシスタント」(キティ・グリーン監督)
「別れる決心」(パク・チャヌク監督)
「枯れ葉」(アキ・カウリスマキ監督)
「理想郷」(ロドリゴ・ソロゴイェン監督)

ド肝抜かれる異常な展開

デンマークを拠点に活動するイラン人監督アリ・アッバシは、前作「ボーダー 二つの世界」が極めつきの怪作だったが、「聖地には蜘蛛が巣を張る」にもド肝を抜かれた。イランの聖地で娼婦(しょうふ)を毒牙にかけるシリアルキラーと事件を追う女性記者、それぞれの行動をパラレルに描出。ついに両者が交錯する緊迫のクライマックスの先にも、言葉を失う異常な展開が待ち受ける。小さな独立系配給会社が見過ごされた秀作を掘り起こしてくれた「私、オルガ・ヘプナロヴァー」「アシスタント」もうれしい収穫だった。

上記のリストからは漏れたが、配信作品では「ザ・キラー」(デビッド・フィンチャー監督/Netflix)、「誰も助けてくれない」(ブライアン・ダッフィールド監督/ディズニープラス)が素晴らしかった。

くる年編


「落下の解剖学」(ジュスティーヌ・トリエ監督) 2月23日公開
「12日の殺人」(ドミニク・モル監督) 3月15日公開
「When Evil Lurks」(デミアン・ラグナ監督) 公開未定


すさまじそうな予感、見たい!

「落下の解剖学」「12日の殺人」は、どちらもフランス製作のミステリースリラー。前者は雪山の山荘で起こった変死事件をめぐる裁判劇で、2023年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。後者はこのジャンルの名手、ドミニク・モル監督の新作で、女子大学生殺しの捜査を担当する刑事コンビの苦闘劇。こちらは23年セザール賞で作品賞、監督賞など6部門を制した。そして「When Evil Lurks」は悪魔つきと感染パニックを合体させたアルゼンチンのホラー映画。海外トレーラーを見るとすさまじそうな予感がするので、来年中にぜひ見たい!

【ひとシネマ的 ゆく年くる年 総まくり2023年】
人生の苦難、心の闇……〝痛み〟引きずった作品たち SYO
面白い作品を満喫 悔いなき1年 高橋佑弥
日本映画に感じた「物作り」の力 洪相鉉
やっと戻った日常 心の琴線に触れた10本 後藤恵子
印象残った 今日的なテーマの良作 井上知大

ライター
高橋諭治

高橋諭治

たかはし・ゆじ 純真な少年時代に恐怖映画を見すぎて、人生を踏み外した映画ライター。毎日新聞「シネマの週末」、映画.com、劇場パンフレットなどに寄稿しながら、世界中の謎めいた映画、恐ろしい映画と日々格闘している。