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2024.3.29

実話を元にした最強かつ最恐の家族物語「アイアンクロー」ザック・エフロンは世界を制覇するプロレスラーのボディーだと納得!

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

座間耀永

座間耀永

プロレスとは何か。それは、ただの格闘技ではない。ありとあらゆる技を駆使し、相手をリングに沈める。単に、相手を倒すだけではない。戦いのドラマを期待する観客に応えなければならない。細かい技から必殺技。相手を威嚇する怒号。決めのポーズ。観客たちは、リングのヒーローに歓声をあげる。そして、王者になった者だけが、許される「栄光」という名の冠。それを手に入れることができるのは、たった一握りのレスラーだけだ。
 
1980年代、プロレス界の頂点に立った伝説のプロレスファミリーがいた。プロレス界に歴史を刻んだ〝鉄の爪(以下、アイアンクロー)〟フォン・エリック一家。一家の長、フリッツは、元AWA世界ヘビー級王者。巨大な手で敵レスラーの顔をわしづかみにする必殺技〝アイアンクロー〟を生み出して一世を風靡し、ヒール(悪役)として活躍した。
 
フリッツは、家族を養うため、自らプロレス団体を設立。自分の息子たちを花形レスラーに育てる計画を立てる。長男を早くに亡くした一家だが5人の息子がいた(実際には6人だが映画では5人の設定)。厳格な父の指導の下、息子たちは次々と頭角を現し、プロレス界の話題をさらっていく。しかし、最強のプロレスファミリーを作り上げていくという父の野望はとどまることを知らない。人格を否定までする父の追い込みに、やがて次々と息子たちは悲劇に見舞われていく。


 

「呪われた一家」となぜ呼ばれるのか

フリッツは、まず次男であるケビンを筆頭にして最強のプロレスファミリーとしてトップに君臨しようとする。1979年にNWAテキサス州ヘビー級チャンピオンになるケビン。しかしフリッツはケビンを祝うより先に「これはまだはじめの一歩にすぎない」と言い放つ。三男のデビッドもデビューが決まり、さらに大学生でオリンピック陸上選手だった四男ケリーも参加することになる。ケリーは、アメリカがモスクワ五輪をボイコットしたため、行き場が無くなっていた。
チャンピオンになったケビンだったが、世間は華やかなデビットとケリーに注目。父もケビンをないがしろにしていく。嫉妬にさいなまれながら、弟たちを支援するケビン。しかし、1984年2月10日、三男デビッドが家族の念願である世界ヘビー級タイトルマッチの直前に、巡業先の日本で急死する。デビッドは鉄の爪2世とも呼ばれ、かの有名な天龍源一郎との試合を控えていたが、試合当日、内臓疾患で死亡しているのをホテルで発見された。悲しみにくれる家族だが、フリッツはさらに兄弟を追い込んでいく。しかしこれはまだ「フォン・エリック・ファミリーの悲劇の始まり」に過ぎなかった。
 
デビッドの追悼興行のヘビー級タイトルマッチ。フリッツはコインを投げてケビンとケリーのどちらを対戦相手にするかを選ぶ。選ばれた四男ケリーは見事に勝利し、ついにフォン・エリック家から世界ヘビー級王者が誕生する。だが、栄光の頂点のさなか、ケリーはバイク事故に遭い、片足を失う。

 
このことから「呪われた一家」と言われ始めたフォン・エリック・ファミリー。ケビンは、自分の子供の幸せを願い、秘密裏に、父が改姓する前の姓で息子の出生登録をする。ミュージシャンを目指していた五男のマイク。だが彼は、ケリーの事故により、レスラーを目指さざるを得なくなってしまう。しかし試合中のケガの後遺症とプレッシャーにより、衝動的に命を絶ってしまう。義足を装着してプロレス界に復帰したケリーも、鎮痛剤の多用による中毒症状に悩み、拳銃自殺を図る。兄弟の中で唯一生き残ったケビン。結末はネタバレになるので言えないが、現在も存命であるケビンこそ、家族愛を貫いた真の戦士となった。必殺技「鉄の爪(アイアンクロー)」が倒したのは、敵のレスラーではなく、家族だったのではないだろうか。
 

実話との相違点

調べてみると映画には出てこないが、フォン一家には六男クリスもいたが、彼もまた若くしてピストル自殺した。父のフリッツも68歳という若さで癌(がん)で死去している。映画化するにはあまりにも壮絶で悲劇的なファミリーヒストリーだが、これは実話なのだ。

 

ザック・エフロンの役作りに圧倒される!

私が人生で初めてファンになった俳優はザック・エフロン。2006年生まれの私だが、その年、彼が主役トロイを演じる「ハイスクール・ミュージカル」が大ヒットしていた。本作は第58回プライムタイム・エミー賞で2部門受賞した。サウンドトラックもヒットを飛ばし、中でも「Breaking Free」はBillboard Hot100 で最高4位にもなった名曲だ。 

私は、小学校に入ってからディズニーチャンネルの再放送で鑑賞したのだが、ザック・エフロンを見た瞬間、あまりの歌のうまさと格好良さに驚き、何度も繰り返し作品を見てしまい、劇中歌は全部歌えるようになり、せりふもほとんど覚えてしまった。思えば英語が得意になったのは、この作品に出会ったからだと言っても過言ではない。
 
それからザック・エフロンの映画はほとんど見てきたが、今回のザックは今まで見たことがない驚異的な役に挑んでいた。まずは、その別人のような風貌と、体づくり。世界を制覇するプロレスラーのボディーだと観客に納得させる見事な鍛え上げ方だ。父フリッツを囲んだ3兄弟の写真が残されているが、ザックたちが寸分たがわないポーズと衣装で、見事に再現したプレス資料の写真においては、むしろ実際の兄弟たちより鍛え上げられており、そのボディーに目を見張る。これは、シックスパッドどころではなく、驚異の肉体改造で真剣にこの役に臨んだことがわかり、敬服に値する。

 
ザックは以前から、役に集中するためにかなり自分を追い込んでボディーづくりをするらしく、2017年の「ベイウォッチ」の役作りのために体重を増量した時、うつ状態になったことがあると知り今回も心配したが、見事に肉体改造に成功していた。私がかつて魅了されたザックがもう36歳になっていることにも衝撃を受け、時の流れは早いと身にしみて感じた。相変わらず格好よいが、当時から絶大な支持を得ていたディズニーの爽やかな俳優が幅広い演技でハリウッド殿堂入りのカメレオン俳優になり感銘を受けた。
 

驚異的な再現度!

フォン・エリック一家を演じたキャストたちが、当時の彼らを再現した写真が驚異的だ。試合前にポーズを決める兄弟たちや、当時の貴重な写真を再現した様子が、リアルすぎて、ファンを狂喜乱舞させることは間違いないだろう。また、当時のファンたちがエキストラで参加するなど、プロレスファンにはたまらない映画になっている。
 

プロレスラーの真実の顔とは

プロレスラーというと、ファンにとっては強いイメージが重視されるかもしれない。だが、この映画を見てわかる通り、ひとりひとりが人間であり、心に葛藤を抱えている。そして、家族を大切にする心温かい人たちでもある。フリッツ本人は、日本でジャイアント馬場やアントニオ猪木らと戦ったことがある。私の両親は海外在住時に、何度かアントニオ猪木さんと食事をする機会があったらしいのだが、リングの上とは異なる父親としての猪木さん、ビジネスマンとしての猪木さんの素顔に触れたことがあるそうだ。とても温かく、かつ人を大切にするビジネスマンという顔もあったらしい。お亡くなりになり大変残念だが、プロレスラーも一人の人間だというエピソードを聞き、この映画のそれぞれの人々に思いをはせた。
 
格闘技が好きな私だが、試合だけでなくこういったヒューマンドラマを見ると、ますます試合を見るときの姿勢が変わってくる。彼らはヒーローでありながら、一人の人間としての顔がある。その切ないまでの人生の葛藤をぜひ映画館で堪能してほしい。
4月5日(金)公開。

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ライター
座間耀永

座間耀永

ざま・あきの 2006年生まれの高校生。小3から子供新聞記者、毎年、数々の作文コンクールに入賞。SDGsシンポジウム登壇。2023年6月、「言葉の力」コミュニティ、非営利型一般社団法人AZ Bande(アイジー バンデ)を設立。作文教室やSDGs活動、ヨット普及活動を通し、売り上げの一部を教育クーポンを配布する団体に寄付。カナダのセーリング団体ISPA創始者に師事、小型船舶2級保持者。会社名は亡父の愛艇から。


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