「アルトマン・メソッド」(左から)ナダブ・アロノビッツ、マーヤン・ウェインストック、ニル・バラク

「アルトマン・メソッド」(左から)ナダブ・アロノビッツ、マーヤン・ウェインストック、ニル・バラク

2022.10.28

イスラエルとパレスチナの対立と日本の武道がつながった 「アルトマン・メソッド」ゲスト来日 東京国際映画祭

第35回東京国際映画祭が始まります。過去2年、コロナ禍での縮小開催でしたが、今年は通常開催に近づきレッドカーペットも復活。日本初上陸の作品を中心とした新作、話題作がてんこ盛り。ひとシネマ取材陣が、見どころとその熱気をお伝えします。

勝田友巳

勝田友巳

東京国際映画祭「アジアの未来」部門に出品された「アルトマン・メソッド」は、映画祭でこそ出会える1本。イスラエルとパレスチナの対立に、日本文化が介在する意外な物語だ。イスラエルのナダブ・アロノビッツ監督と主演俳優が来日して、観客との質疑応答に臨んだ。
 

テロリスト制圧した武道家が英雄に

ウリ(ニル・バラク)は、空手など武道道場の館主。経営不振で困っていたが、ある日清掃人の女性をパレスチナのテロリストと見破って制圧、殺害する。ウリは英雄視されて道場は大人気となったが、女優としての再起を図っている妻のノア(マーヤン・ウェインストック)はウリの言動に疑惑をふくらませてゆく。
 
これが世界初披露。アロノビッツ監督は「異なる文化の日本で披露できるのはすばらしい。感想を楽しみにしていた」とあいさつ。TOHOシネマズシャンテの客席はほぼ満席だった。
 
映画は事件の真相をはっきりとは明かさず、あいまいなまま終わる。客席から、事件の真相をめぐる夫婦の口論について質問が。「警察で真相を話した」と言うノアに怒ったウリが「本当か」と問い詰める。ノアは明確には答えない。「本当にノアは、警察に行ったのですか?」
 

監督と俳優 分かれる解釈


アロノビッツ監督は「私にとっては、その答えよりも問いが大切。撮影中はずっとその問いを考えていた」。これに対してノア役のウェインストックは「私の解釈は全然違います」と切り出した。

 
「ノアは良き妻としてウリを支え、裏切ることなんか考えられない。しかし疑惑は膨らんでいる。女優であるノアにとって唯一の武器は『演技』で、彼女はウリをかき乱そうとした。彼女が恐れたのは夫の行為よりも、ウソをつかれたことだったのです」
 
続けてバラクの答え。

「彼は優しいけれど、マッチョな男性性の毒を持っている。妻が自分を裏切ったと知ったら、そのままにしておかないはず」。同じ場面でも監督と俳優の解釈が違っているという「羅生門」的一幕だった。
 

緊張が生むパレスチナ人への偏見

映画の背景には、イスラエルにおけるパレスチナへの偏見がある。アロノビッツ監督は「イスラエルがパレスチナを占領していることで、自由な側と不自由な側の間に緊張感がある。核となる問題が常に存在し、事件が起きるとメディアがパレスチナ人のテロと書き立てる状況なのです」と説明。映画の中でウリの行為を「無力化」と表現しているのも、「口当たりのいい言い方で、きれい事にしているため」と話した。
 
ウェインストックも「メディアはテロと非難するが、誰にでも自由を求める権利はあり、そうでない人が行動を起こすのも当然だ。イスラエルは彼らをテロリストと名付けて状況を都合良く説明している。私はいつも引き裂かれていて、今回もイスラエルを代表して来日したと同時に、批判もしていることになる」と胸の内を訴えた。
 

合気道はアート

ところでこの映画の中に気になる一言が、と司会の石坂健治シニア・プログラマーから質問。「ウリが道場の助手を募集するのに、空手、柔道、柔術ならいいけど、合気道はダメと言ったのはなぜ? 合気道は相手の力を吸収する武道だからですか」

 
バラクは「まさか日本に来るとは思わなかったから合気道は嫌いと言ったけど、本当は大好き」と笑わせて「相手の力を利用する合気道はアートと言える。でもアートはノアの専門で、ウリはマッチョな男だから受け入れないんでしょうね」。日本の武道への深い理解を示した一幕だった。
 
その国の状況を映す映画について、作り手と直接意見交換できるのが国際映画祭の魅力だと実感。「アルトマン・メソッド」は31日にも上映される。

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アルトマン・メソッド

ウリ(ニル・バラク)は、空手など武道道場の館主。経営不振で困っていたが、ある日清掃人の女性をパレスチナのテロリストと見破って制圧、殺害する。ウリは英雄視されて道場は大人気となったが、女優としての再起を図っている妻のノア(マーヤン・ウェインストック)はウリの言動に疑惑をふくらませてゆく。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

2022TIFF