第35回東京国際映画祭が始まります。過去2年、コロナ禍での縮小開催でしたが、今年は通常開催に近づきレッドカーペットも復活。日本初上陸の作品を中心とした新作、話題作がてんこ盛り。ひとシネマ取材陣が、見どころとその熱気をお伝えします。
2022.10.25
気鋭アニメ3監督 世界の創り方「爆発力」「全てコントロール」「固定観念捨てる」 東京国際映画祭シンポジウム
第35回東京国際映画祭のジャパニーズ・アニメーション部門は「ゼロから世界を創る」がテーマ。25日に開催されたシンポジウム「アニメーションで世界を創る」では、「雨を告げる漂流団地」の石田祐康、「夏へのトンネル、さよならの出口」の田口智久、「ぼくらのよあけ」の黒川智之と、相次いで新作を発表した3監督が登壇。アニメ評論家である藤津亮太がモデレーターとなり、アニメーションで世界を生み出していくことの面白さ、難しさを、自作についても触れながら語り合った。
©2022TIFF
石田監督「描き手の意志や熱量が表れる」
団地が舞台となった「雨を告げる漂流団地」の石田監督は、描き手の意志や熱量、フェティシズムが表れるのがアニメーションの面白さだと話す。「伝えたい意志が明確で、描き手の熱量が込められた時の絵の爆発力が魅力です。幼少期からそこに関心を持って見ていました」
「雨を告げる漂流団地」を作るにあたって、自分の中の団地のイメージを膨らませようと、取り壊し中の団地を見学したり、実際に団地で暮らしてみたりしたという。キャラクターたちはここでどう走り回り、どう活用していくのか? ひとつひとつ検証して、作品づくりを深めていった。
「雨を告げる漂流団地」©コロリド・ツインエンジンパートナーズ
反対に、アニメーションで世界を創るデメリットは?と問われると、描き手の熱量が乗せられなかったり、うまくマッチングしなかったりすると、感動が落ちてしまう点だと吐露。「アニメーション製作は、ハイリスク・ハイリターンですね」と、難しさを口にした。
©2022TIFF
田口監督「良くも悪くも、全てがコントロールできる」
「ウラシマトンネル」という架空のトンネルをめぐる物語「夏へのトンネル、さよならの出口」の田口監督は、「全てがコントロールできる」のがアニメーションのメリットだと話す。スタッフの熱量や意志の力で、〝それらしく〟表現できるのが魅力だ。そのため、作品を作るにあたって重要なのは「自分の意志を実現してくれるアニメーターなどのスタッフがいるかだ」と話した。
「夏へのトンネル、さよならの出口」©2022 八目迷・小学館/映画「夏へのトンネル、さよならの出口」製作委員会
「夏へのトンネル、さよならの出口」の製作で難しかったのは、「あるものを失う代わりに欲しいものが何でも手に入る」という力を持つ「ウラシマトンネル」の描き方だった。あまりにもSF要素の強いビジュアルにしてしまうと、トンネルの持つ不思議な力のすごさが薄れてしまうからだ。どのようなビジュアルであれば観客はトンネルに親しみを持てるか、試行錯誤して設計していった。「意図しているところにお客さんを連れて行けるよう、意識しました」
©2022TIFF
黒川監督「白紙のコンテ用紙にイメージを落とし込む」
「全てコントロールできるのがアニメーションの魅力」と語った田口監督に共感したのが、近未来の団地が舞台となった「ぼくらのよあけ」の黒川監督。学生時代に経験した実写作品の製作と対比しながら、アニメーションならではの魅力について話す。「実写は、突然風が吹くなどの偶然性があるのが魅力です。一方でアニメーションは、〝狙って〟構図をとったり描いたりしなければなりません」
「ぼくらのよあけ」©今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会
SFジュブナイル漫画が原作となった「ぼくらのよあけ」を製作するにあたって意識したのは、できるだけ自分の中にある固定観念から離れること。登場するキャラクターたちも、作品を見ている観客たちも驚かせるような作画にするため、地球とは違った形の惑星「虹の根」のデザインは、アニメーションとあまり関わりのなかったイラストレーター・みっちぇに依頼。誰も見たことがなかった風景が誕生した。
「白紙のコンテ用紙に向かって自分のイメージを落とし込んでいくのが面白さであり、難しさであり、苦しいところでもある。それがアニメーションの魅力なんじゃないか」と締めくくると、石田監督も田口監督も大きくうなずき、共感を示した。
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