誕生日のケーキを贈られた、ツァイ・ミンリャン監督(右から4人目)

誕生日のケーキを贈られた、ツァイ・ミンリャン監督(右から4人目)

2022.10.28

ツァイ・ミンリャン監督 日本で誕生日「長年のファンに感謝」 東京国際映画祭

第35回東京国際映画祭が始まります。過去2年、コロナ禍での縮小開催でしたが、今年は通常開催に近づきレッドカーペットも復活。日本初上陸の作品を中心とした新作、話題作がてんこ盛り。ひとシネマ取材陣が、見どころとその熱気をお伝えします。

ひとしねま

高橋咲子

長編映画「青春神話」(1992年)でデビュー以来、日本をはじめ世界中でファンを獲得している台湾のツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督。65歳を迎えた誕生日の10月27日にメディア交流会が開かれ、デビュー30周年に際して「創作スタイルが変わっても、同じように歩いてきてくれた」と長年のファンへの感謝を口にした。

 
ツァイ・ミンリャン監督(左)と盟友リー・カンション=高橋咲子撮影

メディア交流会 盟友リー・カンションもお祝い

東京国際映画祭、東京フィルメックス、台湾文化センターが共催し、各映画祭で特集上映が組まれ、メディア交流会はその一環。交流会には、ツァイ作品でおなじみの俳優リー・カンション(李康生)らも参加した。
 
ツァイ監督はデビュー時を振り返り、「当時ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督が世界で有名になり、台湾映画が続々作られていった。興行収入では苦戦していたが、映画ファンにこれまで見たことがない世界を提供したと思う。日本でも非常に人気があり、とある夏には同時期に8本も公開されていた記憶がある。台湾の政府も、製作者を非常に応援してくれた」と話した。
 
台湾を代表する映画監督として、世界でも人気が高い。東京での特集上映に加えて、現在米ニューヨーク近代美術館で回顧展が開催されており、「胸のなかは感謝でいっぱい」だと喜ぶ。「あっという間に時がたち、私も60歳を超えた。このように受け入れてくれるところがなければ、撮り続けることは難しかった。本当に感慨深く、この人生は無駄ではなかったと思う」と笑みを浮かべた。
 

映画は重要な文化交流の機会

一方、ツァイ作品で主演を務めてきたリーも「30年間映画に携わり、54歳になった。映画祭でも劇場でも、日本で私たちの作品が上映される機会は多かった。日本にはたくさんファンがいてくれる」と柔らかな口調で話した。最近は、日本との合作映画に出演する機会も多いといい、 奥原浩志監督作「ホテルアイリス」やリム・カーワイ監督作「カム・アンド・ゴー」を挙げ、さらに、蔦哲一朗監督の「黒の牛」の撮影が始まっているという。
 
「(ツァイ監督の)『西瓜』もそうだが、日本の女優と共演する機会も多く、私にとって映画は文化交流の重要な場だと思っている」と語った。
 
ツァイ監督は台湾映画の現状について問われると、「この数年台湾の映画館で台湾映画がかかる機会が増え、興収が上がっていることは言っておきたい。台湾映画をみんなが見るようになっている。ただ、視点が市場に向き、創作力も若干弱いのではと感じている」と話す。日本映画について深田晃司監督や濱口竜介監督の名を挙げて「新世代にはいい監督がたくさん出ている。台湾映画も頑張ってほしい」とエールを送った。
 

「楽日」より。 @Lin Meng-Shan

初受賞の東京から世界へ

デビュー作「青春神話」は東京国際映画祭でヤングシネマ部門ブロンズ賞を受賞し、翌年「愛情萬歳」がベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞している。交流会に参加した石坂健治・東京国際映画祭シニア・プログラマーは「東京が最初に賞を贈ったことが誇り。その後も、東京フィルメックスで紹介してきた」と両映画祭での縁を語った。ツァイ監督とは旧知の仲だといい、「監督が台北でコーヒーショップを営業しているときにうかがったら、クッキーを焼いてくれ、いまだにクッキーとコーヒーの味が残っている。ちなみにリーさんは奥でテレビゲームしていた」と和やかな思い出を語った。
 
東京国際映画祭では「青春神話」「楽日」、短編集などを上映。東京フィルメックスでは「ふたつの時、ふたりの時間」など3作品を上映する。また、台湾文化センター(東京・虎ノ門)では長編作品を振り返るポスター展を開催している。
 
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ライター
ひとしねま

高橋咲子

毎日新聞学芸部記者