「マトリックス」より ©1999 Village Roadshow Films (BVI) Limited.  © 1999 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

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2023.9.15

キアヌ・リーブスの変わらぬ魅力を徹底解剖:多彩? 無節操? 振幅マックス キアヌ・リーブスの出演履歴は聖人伝説の裏返し

最新主演作「ジョン・ウィック:コンセクエンス」が9月22日(金)に公開されるキアヌ・リーブス。来日プロモーションはかなわなくなったものの、公開を前に「ジョン・ウィック」シリーズの紹介、俳優としてのキャリアに人となりなど、全方位的にキアヌの魅力に迫ります。

勝田友巳

勝田友巳

キアヌ・リーブスと言えば「マトリックス」「ジョン・ウィック」と、大ヒットした二つのシリーズが代表作。とはいえ実はアクションは出演歴のごく一部。大作からインディペンデントの小品まで、恋愛もののモテ役も、スリラーで悪役もこなして幅広い。といって、オスカー候補となるような演技派ともいいがたい。
 
1964年生まれで、62年生まれのトム・クルーズ、63年のジョニー・デップやブラッド・ピットと同世代だが、いかにもスターの彼らとひと味違う。立ち位置なら同い年のニコラス・ケイジの方が近いかも。ラーメン好きの親日家、亡き親友を悼み続け、弱きを助ける聖人伝説とスクリーンの外でも異彩を放つ。キアヌ・リーブスって、どんな人?
 

「ビルとテッドの大冒険」より  © 1989 STUDIOCANAL. All Rights Reserved.

山を越えて吹く涼風

英国人の母親と、祖先に英国とポルトガルとハワイと中国の血統を持つ父親の間に、レバノンで生まれた。「キアヌ」は、ハワイの現地語で「山を越えて吹く涼風」の意味。両親が離婚した後は母親に引き取られ、母親が結婚と離婚を繰り返して引っ越しを重ねる。
 
カナダ・トロントでの高校時代はアイスホッケーと演劇に熱中した。アイスホッケーではゴールキーパーで活躍し、プロも目指したもののケガで断念。高校を中退して演劇の道に進んだ。
 
80年代半ばからテレビや映画の端役として出演し、やがて身一つでハリウッドへ。「リバース・エッジ」(86年)、「危険な関係」(88年)で注目され、おバカコメディーの「ビルとテッドの大冒険」(89年)がヒットして一気に知名度を獲得した。フランシス・フォード・コッポラ監督の「ドラキュラ」(92年)、ベルナルド・ベルトルッチ監督の「リトル・ブッダ」(93年)と巨匠の大作にも出演し、大いに薫陶を受けたようだ。
 

「マイ・プライベート・アイダホ」より © 1991 New Line Productions, Inc. All rights reserved.

悲劇の人 親友リバー・フェニックス、生まれなかった娘‥‥‥

6歳下のリバー・フェニックスと親友となったのは、「バックマン家の人々」(89年)でリバーの弟ホアキンと共演したことがきっかけ。「殺したいほどアイ・ラブ・ユー」(90年)でリバーと共演し、「2人一緒に」を条件に出演した「マイ・プライベート・アイダホ」(91年)で好演し、人気も定着。
 
しかしフェニックスは2年後に急死してしまう。リーブスは天才俳優の早世を深く悲しみ、今でもその死を悼むコメントを出している。交際相手の女優、ジェニファー・サイムとの間の娘が99年に死産、2001年にサイムも交通事故死するという悲劇にも見舞われた。
 

「マトリックス」より ©1999 Village Roadshow Films (BVI) Limited. © 1999 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

サニー千葉がアクションの師匠

アクションへの初挑戦は「ハートブルー」(91年)だが、幼い頃に千葉真一に憧れ、その主演作でカンフーを学んだというだけに、アクションへの思い入れはあったようだ。99年からの「マトリックス」シリーズではカンフーとCGを多用した様式美、14年に始まった「ジョン・ウィック」ではなりふり構わぬ肉弾戦と、タイプの異なるアクションをこなして代表作となった。
 
長身と長い手足を持て余すようにしながら、スピードよりもパワーと技で相手を制す動き、表情を変えないストイックさは独特のスタイルだ。
 
「マトリックス」の撮影前に4カ月カンフーを修業し、ユエン・ウーピンに指導を受けてアクションへの思いはさらに深まり、13年には中国との合作でカンフーアクション「ファイティング・タイガー」を初監督・主演するに至っている。アクション俳優のイメージも無理からぬところではある。
 

「地球が静止する日」より © 2023 Twentieth Century Fox Film Corporation
ディズニープラスのスターで配信中

凡作、珍品、興行不振 悪球打ち?

しかし「マトリックス」「ジョン・ウィック」の前にも後にも、アクション以外の多くに出演してきた。デビューからしばらくは何でもこなして幅を広げたのは当然としても、スターになってからも多彩というか節操がないというか、とにかく幅広い。
 
SF大作「地球が静止する日」(08年)などヒットもあれば、「チェーン・リアクション」(96年)や「スウィート・ノベンバー」(01年)といった凡作も少なからず。四十七士の1人を演じた珍品「47RONIN」(13年)にいたっては、本人も「残念」と振り返っている。
 
豪華客船が暴走する「スピード」続編への出演を「これは『スピード』とは別物」とあっさり断っているから何でもいいというわけでもなさそうだ。借金返済のために手当たり次第に出演したニコラス・ケイジとは、そこが違うところ。いずれにしても、作品選びの選球眼は、いいとは言えないようだ。
 

「ジョン・ウィック:コンセクエンス」より Ⓡ, TM & © 2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

巨額の寄付をひそかに

ただそれも、本人の人柄の反映にも見えてくる。スクリーンの外でも注目の的になるのはスターの常とはいえ、恋愛沙汰とかハラスメントとかいったゴシップとは縁遠い。
 
作品を通して親しくなった仲間の応援のために出演を決め、出演料が1500万ドルというトップスターでも金銭への執着は感じられず、「マトリックス」の出演料を、成功は彼らのおかげとスタッフに還元したり、白血病の妹を世話し、ひそかに研究機関に多額の寄付をしたりといった陰徳も積む。
 
バイク好きが高じて11年にカスタムバイクの製造販売会社「アーチ・モーターサイクル」を共同設立。受注生産手作りで、1台1000万円近い高級車を手がけている。15年には鈴鹿8時間耐久レースに自ら開発したKRGT-1と共に登場し、走行を披露した。
 
日本でのラーメン食べ歩きはつとに知られ、映画のプロモーション以外にもお忍びで来日しては各地のラーメン店に出没し、目撃情報が後を絶たない。気付いたファンにサインをねだられて気さくに応じる神対応も、聖人伝説のゆえん。
 
「ジョン・ウィック:コンセクエンス」公開に合わせて来日するはずだったが、米俳優組合のストライキで中止。ところが自身がベースを務めるバンド「ドッグスター」が、21年ぶりに来日して、7日に横浜でライブを行った。今回はどのラーメン店を訪ねたのか。そろそろ目撃情報が上がってくる頃かも‥‥‥。
 
 
<画像使用の作品一覧>

「ビルとテッドの大冒険」
価格 Blu-ray¥2200(税込み)
 発売・販売元 KADOKAWA
※2023年9月現在の情報です


「マイ・プライベート・アイダホ」
ブルーレイ 3289 円(税込み)/DVD 1572円(税込み)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
※2023年9月現在の情報です
 

「マトリックス」
ブルーレイ 2619円(税込み)/DVD 1572円(税込み)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
※2023年9月現在の情報です



「地球が静止する日」
ディズニープラスのスターで配信中

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。