©2022TIFF

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2022.10.26

稲垣吾郎「僕にあてて脚本を書いてくれたことがわかり、撮影が楽しみだった」「窓辺にて」ワールド・プレミア

第35回東京国際映画祭が始まります。過去2年、コロナ禍での縮小開催でしたが、今年は通常開催に近づきレッドカーペットも復活。日本初上陸の作品を中心とした新作、話題作がてんこ盛り。ひとシネマ取材陣が、見どころとその熱気をお伝えします。

鈴木隆

鈴木隆

コンペティション作品「窓辺にて」は26日にワール・ドプレミア上映され、上映後の舞台あいさつとQ&Aに主演の稲垣吾郎さんと今泉力哉監督が登壇した。稲垣さんが冒頭、2018年の東京国際映画祭のコンペ作品として、今泉監督が「愛がなんだ」を出品、僕が出演した「半世界」も選ばれたことがきっかけで、「元々、今泉監督作品のファンでその後に雑誌で対談した」と説明。今泉監督は「稲垣さんから一緒に映画を作るならどんな映画になりますかと言われたが、その時はこの作品の企画を考えている途中で、稲垣さんにお願いする前だったので何も言えず大変だった」と笑顔で明かした。

 

稲垣さん通訳への配慮も  

対談の序盤に稲垣さんは「通訳のことを考えると、短めにコンパクトに話した方がいいかな」と気遣いを見せた。「この作品は今泉監督が生み出した言葉やセリフがたくさんあり、僕にあてて脚本を書いてくれたことがわかり、撮影が楽しみだった」と撮影当初から意欲的に取り組んだ。
 
稲垣さんとの仕事を聞かれた今泉監督は「テレビなどで見ていたイメージでは喜怒哀楽が激しくなく、穏やかな印象だった。今回の主人公は妻が浮気していても感情が動かなかったことで悩む人。そういうことを理解して演じてくれると思って脚本を書いた」と語った。さらに司会が「理解なんかしない方がいいんだよ。理解して裏切られるから」というセリフを例に、言葉の意味の深さについて尋ねると「映画のセリフって決めゼリフみたいにすると現実から離れてしまう。普段使っている言葉から書こうと考えた。稲垣さんが話すことで言葉が浮かないというか、本当に話している言葉に見えて大丈夫だと感じた」と述べた。


「窓辺にて」©2022「窓辺にて」製作委員会
 

役作りをしない役だった

 今泉監督の話を受けて、稲垣さんも「すごく理解できる。もしかしたら、僕も結婚していてそうなったらショックだが、その場で感情表現ができないなとか、普通だったらこのくらい怒らなきゃいけない、落ち込まないといけないというような一つの線みたいなものがあって、そこに達していないといけないと思ったり、主人公のような気持ちになるのかなとも思う」と複雑な心情を話した。続けて、「みんな幸せになろうとしているし、愛する人も幸せになってほしいと思う。登場人物がとてもチャーミングにかわいらしく感じる作品」と感慨深げに話した。
 
ここで、会場の観客からの質問に答えるQ&Aセッションになった。役作りを問われた稲垣さんは「ここまで役作りをしない役はなかったと思うくらい。僕が思っていること、僕の心の中を見透かされている感じだった。自然にそこにたたずんでいれば、この役で存在できると思って演じた」と振り返った。「芝居をしすぎないこと。自然にそこで生まれた言葉のように感じさせるというか、今泉組のスタイルに自分をチューニングした。俳優として最高の体験だった」
 

小さな悩みも大事にしたい

 参考にした映画や小説を聞かれた今泉監督は「実際の作品からというのはない。現実の世界にあるいいとか悪いとかされていることが設定としてあって、それを疑うことをした。例えば、浮気とか不倫とかが出てきて、世の中的には大前提は良くないことだが、その時間が楽しい時間だからよくないとされていて、この作品のなかでは罪悪感について話したり、純粋な気持ちかもしれないものが絶対的な悪としてそこに感情がないものにされることを、そんな簡単なものかと思う部分があった」。「手放すとかやめることがマイナスで、続けることがプラスみたいに言われているが、手放すとかやめるのも次に進むために必要だったり、マイナスではなかったりする。これはいい、これはいけないというのを疑うことをやろうとした」
 
今泉監督が続ける。「共感とか、みんなが知っている感情が映画の主題になりやすいが、小さな悩み、他の人には理解されないことも主題にしている。どんなに小さな悩みも大事にしたい、大切にしたいと思って作った」と映画の核心について付け加えた。

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ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

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