Y2K=2000年代のファッションやカルチャーが、Z世代の注目を集めています。映画もたくさんありました。懐かしくて新しい、あの時代のあの映画、語ってもらいます。
2024.8.09
公開から20年、ノスタルジックな映像美で描く、少女たちの成長物語「花とアリス」
岩井俊二監督が手掛けた「花とアリス」は、青春のはかなさや思春期の少女たち、花(鈴木杏)とアリス(蒼井優)が「恋」を通じて成長していく過程を描いた作品だ。2004年に公開された映画だが、その人気から11年後の15年には、前日譚(たん)にあたる長編アニメーションとなる「花とアリス殺人事件」が公開された。
うそから始まる、花の片思いストーリー
この物語は、花のうそを主軸として進んでいく。花はある日、片思いをしている宮本先輩がガレージのシャッターに頭をぶつけて倒れるのを目撃する。意識もうろうとしている宮本に、花はとっさに「記憶喪失ですよ、先輩! 私に告白したこと覚えていますか?」とうそをついてしまう。そこから親友のアリスを先輩の元カノと偽り……。花はうそにうそを重ねていくのだ。めちゃくちゃに見える花だが、好きな人のために特に興味もない落語部に入部するけなげさは憎めない。そんな中、宮本はアリスに心引かれていきアリスも宮本を意識し始め……。花の恋はうそがバレたら終わってしまうのか、アリスと宮本の本心は一体何なのか、など3人の複雑な恋模様に注目してほしい。しかしこの作品で描かれているのは「恋」だけではない。花とアリスの友情や、アリスの家族への思い、夢への葛藤も描かれている。このような複雑な要素が混ざり合って目まぐるしく進んでいく展開は、決して見る者を飽きさせない。
登場人物の個性が光る、名シーンの数々
次に、特に印象深かったシーンを紹介する。一つ目は、文化祭で急きょ落語を披露することになった花が、舞台に上がる前に宮本に泣きながら告白をする場面だ。子供と大人のはざまのような、成長していく過程を見事に表現した演技に胸を打たれた。二つ目は、オーディション会場でのアリスのバレエシーンだ。それまでのアリスはオーディションでもうまく自分を出せずにいたが、アリスが諦めずに、自由に楽しそうにバレエを踊るシーンは美しく、彼女の成長を感じさせられた。この二つのシーンはどちらも物語の終盤だが、この作品の結末はきっと見る人の解釈によって異なるだろう。ぜひこの映画を見て、「自分はどう思うのか」、「どうあってほしいのか」について考えてみてほしい。きっとそうして初めて「花」と「アリス」のキャラクターについて理解できるのではないかと思う。
映像と音楽で表現される登場人物の心情
そして特筆すべきはその映像美だ。自然光を生かし、日常の一部を切り取ったようなどこか温かく美しい映像は、二度と戻らない「青春」の美しい日々を表現している。見る者を魅了するこの映像美は、昨今の映画に匹敵するだろう。また、音楽も「花とアリス」の魅力の一つだ。ピアノや弦楽器を中心とした優しいメロディーは、登場人物の心情に寄り添い、それを的確に表している。このように重要な役割を果たしているにもかかわらず、映像と絶妙に調和し、決して邪魔にならない。映像美と登場人物の心情の変化を表現する音楽が相まって、さらにこの映画を面白くしている。
公開から20年、今「花とアリス」に引かれる理由
近年、「レトロ」や「Y2K」が人気を博している。例えば、フィルムカメラで撮った画像がInstagramを中心としたSNSで話題を呼んだり、スマートフォンがあればどこでも音楽が聴ける時代にもかかわらずレコードを集める人がいたり、古着屋やリサイクルショップでのショッピングが人気など、一昔前を思い起こすようなものが流行しているとわかる。これは現代人の多くが「どこか懐かしいもの」に魅了されていることを表している。公開から今年で20年となるこの作品は、ノスタルジックなものに心引かれる全ての人の心に残るだろう。
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