「LOVE LIFE」

「LOVE LIFE」©2022映画「LOVE LIFE」製作委員会&COMME DES CINEMAS

2022.9.09

この1本:「LOVE LIFE」 流れ着いた孤独の先に

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

深田晃司監督の映画は、観客を安全地帯から追い立てる。「淵に立つ」や「よこがお」で、あなたが信じているものは本当に確かですかと、鋭い問いを投げかけた。今作でも平穏な日常を揺さぶって、足元の思わぬもろさをさらけ出す。

映画の始まりは、穏やかな家族ドラマの道具立て。妙子(木村文乃)は前夫との子供敬太を連れ、二郎(永山絢斗)と結婚して1年。二郎の両親を招いたパーティーの準備をしている。妙子は役所の福祉部署の頼れる存在で、妻としても母としても申し分ないようだ。

しかしすぐに、画面にピリピリと緊張が走り始める。結婚を認めない二郎の父親は、まともに妙子の顔も見ない。妙子に好意的なしゅうとめですら、胸をえぐる不用意な一言を漏らす。二郎の元カノの影もちらついている。

不意の侵入者が人間関係の均衡を崩すのは、深田作品にはおなじみのモチーフだ。ある事故をきっかけに行方不明だった前夫のシンジ(砂田アトム)が現れる。シンジは韓国籍のろうあ者で、ホームレスとなっていた。事故とそれに続く三角関係の中で、妙子は自分がよって立っていた属性を、ひとつひとつ剝ぎ取られていく。

自分を見失って迷走する妙子は、やがて韓国まで流れ着いて行き止まる。すがっていたものに放り出され何者でもなくなって、もはや動けない。立ち尽くす妙子の背中には、丸裸にされた妙子の孤独と困惑が漂っている。そしてそれは、わたしたちに跳ね返って背筋を冷たくさせるのだ。

しかし今作の深田監督は、妙子を突き放したままにはしない。新たな一歩の可能性を示す。映画の着想の基となった、矢野顕子の同名曲の優しさと響き合うのである。2時間3分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(勝)

ここに注目

妙子と二郎の家族をつなぎ、かつ不安定な関係の要因にもなっている子供の敬太に起こるある出来事が、静かな水面に石が落ちてさざ波が広がるように、周囲の大人たちを揺さぶっていく。一人一人が自分の心に向き合うことを余儀なくされ、エゴイズムや偽善、嫉妬といった〝負の感情〟に気づいてうろたえる。だが、一人だけうろたえない人物がいて、それがシンジだ。自分に正直に生きているからブレがなくて強い。なのに「弱い人だから放っておけない」とあれこれシンジの面倒を見る妙子。ずれから生じる心の断層を容赦なく映し出す。(光)

技あり

ベテラン山本英夫撮影監督がそつなくまとめた。夜、向かいの棟の義父母宅に風呂をもらいに来た妙子が、しゅうとめとベランダでたばこを手に話す場面。寄りの切り返しになると、背景に無数のボケた団地の白い灯が迫る。話題はしゅうとめがハマる信仰、顔には出さない妙子の疑わしげな目の芝居。後ろが派手な場面では、単純なパーティションも背景になる。生活保護申請をするシンジ、手話通訳する妙子、2人の正面で聞き取る二郎の三人三様。二郎の表情は変わらず、目だけが動く。目の玉の動きをすくい、撮った映画とも言える。(渡)

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