第27回プチョン国際ファンタスティック映画祭の企画マーケットで受賞した中川奈月監督(前列中央)と小川真司プロデューサー(同右から2人目)ら=2023年7月3日、勝田友巳撮影

第27回プチョン国際ファンタスティック映画祭の企画マーケットで受賞した中川奈月監督(前列中央)と小川真司プロデューサー(同右から2人目)ら=2023年7月3日、勝田友巳撮影

2023.7.09

日本の作品が賞金500万ウォン! 傑作のタマゴ探す企画マーケット プチョン国際ファンタスティック映画祭

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勝田友巳

勝田友巳

プチョン国際ファンタスティック映画祭(BIFAN)には映画の企画マーケット「NAFF」が併設され、今回も6月30日から7月3日まで開かれた。各国の監督やプロデューサーが企画を持ち寄り、製作のパートナーを探す出会いの場。優れた企画に賞金を出すコンペも設けられ、今回は中川奈月監督の「炎の中の女」が賞金500万ウォン(約55万円)を獲得。企画実現に幸先のいいスタートとなった。


工夫を凝らした資料を用意してピッチに臨んだ

今年はジャパンイヤー

NAFFはアジアを中心とした世界各国から企画を集め、招待した製作者と交渉の場を提供している。今回は29の企画が参加し、122の製作・配給会社と605回のミーティングが行われたという。
 
集まる企画の大半はプロット段階で、脚本開発も製作費集めもこれから。言ってみれば夢と可能性への投資を募るのだ。毎回違った国に焦点を当てており、参加者に向かって企画を説明する特別なピッチの機会を設けて、後押しする。今回は日本が対象だった。
 
日本から参加したのは「炎の中の女」のほかに、高橋洋監督「夜は千の目をもつ」▽渡辺紘文監督「鬼」▽熊切和嘉監督「Tokyo」▽佐久間啓輔監督「Dulia」――の計5作品。BIFANと提携する映像産業振興機構(VIPO)が、国内での募集に応じた40本から選考した。英語の資料作りやピッチの内容などをアドバイスし、参加者は練習を積んで本番に臨んだ。


熊切和嘉監督も自らピッチ

満員の会場で英語のピッチ

企画ピッチ本番の30日、会場は立ち見が出る盛況ぶり。参加者は用意した映像を利用して、あらすじや予定製作費、資金調達の進捗(しんちょく)状況などを10分ほどで説明。英語の練度はまちまちでも、作品への情熱を伝えることが目的だ。しっかり笑いも取りながら、思いの丈をぶつけいずれも喝采を浴びていた。
 
その後の2日半は、製作者との打ち合わせ。企画の詳細や実現可能性などについて、細かくやり取りする。各企画とも20回ほどミーティングを重ねたという。
 
企画コンペは内容に加え実現可能性、ピッチの充実度などから審査し、総額1億9000万ウォン(約2090万円)の賞金が用意されている。インディペンデントの製作者にとっては大助かりだ。「炎の中の女」はアジアの新人に贈られる賞を、フィリピンの作品と分け合った。
 

「炎の中の女」で「アジアの発見」賞を受賞した中川奈月監督

バイオレンスアクション「炎の中の女」

「炎の中の女」は、中川監督の商業デビューとなる予定のオリジナル企画だ。平凡な女性がゲイの警官を守るために彼の上司である腐敗警官を殺害し、ヤクザに追われるというバイオレンスアクション。製作費は75万ドル、2024年の撮影を目指す。韓国や台湾の製作者が興味を示し、突っ込んだやり取りが交わされたという。中川監督は前回のNAFFに参加した白石晃士監督作品の脚本家として同行し、白石監督らから「監督として自分の企画の応募を」と勧められ、別の仕事で協力していた小川真司プロデューサーの協力を得て応募した。
 
中川監督は受賞を「海外のプロデューサーたちに企画を面白いと言ってもらえたことは自信になった」と喜んだ。東京芸大大学院を修了し、ジャンル映画製作を志望している。「映画の中でしか見られない非日常が魅力。社会性も盛り込みたい」と話す。「炎の中の女」も「固定的な男女の恋愛ではない関係性を描きたい」と意欲的だ。


企画マーケットでは600回以上のミーティングが行われた

企画のポテンシャルが分かる

小川プロデューサーは、アスミック・エースで「リング0 バースデイ」「ジョゼと虎と魚たち」などのヒット作を手がけ、独立して製作会社を起こした経験豊かなベテランだ。企画マーケットにも、売買両方の立場で参加経験を持つ。「相手の食いつき方で、作品のポテンシャルが分かる」と意義を語る。「その場で合作が成立しなくても、各国の製作者や映画祭関係者と知り合ったり、異なる視点から企画へのアドバイスを受けたりすることには大きな意味がある」
 
かつて香港のマーケットに「浅田家!」の企画で参加した際は、フランスの製作者と意気投合した。結果的に合作は実現せず、「浅田家!」は国内で資金調達ができたものの、海外配給にあたってこの製作者が大いに力になってくれたという。「欧州の有力配給者を紹介してもらった。コロナ禍で公開が延びていたが、今年1月に公開されたフランスでは『ドライブ・マイ・カー』を上回るヒットとなった」
 

日本語のセリフでも問題なし

プチョンはジャンル映画に特化しているから、共通の関心を持つ人たちと出会いやすい。またホラーやSF、スリラーなどは、物語が分かりやすく喜怒哀楽も明快で、言語や文化を超えて受け入れられる。一般受けはしなくても、根強いファンは必ずいる。予算も小規模なものが多く、加えて最近はアジア各国が経済的に豊かになったことや製作環境の違いから、日本での撮影は相対的に安上がりなのだという。
 
日本語のセリフで大丈夫?という懸念も杞憂(きゆう)らしい。小川プロデューサーは「アジアの製作会社は、海外との合作に積極的だ。日本語のセリフでも全然問題ないという反応だった。日本だけで製作しても予算も市場も限られる。海外へのアクセスが自由になれば可能性は広がるだろう」。インディペンデントの作り手たちにとって、アジアでの共同製作は活路になりそうだ。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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